軽井沢の森に浮かぶ高床の家。3つの中庭の間を回遊する豊かな暮らし
将来的に軽井沢に移り住むことを考え、緑豊かな別荘地に新築した住まい。周囲の視線が気にならない高床の住まいに既存樹木を残した中庭を点在させ、光と風が通り抜ける空間を実現。
Taeko Ishii
2019年2月10日
フリーランスのエディター・ライター。大学で住まいについて学んだのち、コピーライター、住宅雑誌編集者を経てフリーランスに。暮らしまわりに関すること、地方での暮らしについてが主なテーマです。
フリーランスのエディター・ライター。大学で住まいについて学んだのち、コピーライター、住宅雑誌編集者を経てフリーランスに。暮らしまわりに関すること、地方での暮らしについてが主なテーマです... もっと見る
歴史ある別荘地としての情緒に富みながら、東京からアクセスしやすく利便性に優れる軽井沢。浅間山の雄大な姿を望み、美しい森林や湖に抱かれるロケーションは独自の魅力を放つ。樹齢を重ねた樹木が多く残る別荘地の突き当たりに、水平ラインが美しい高床の建物が、森の中に浮かぶように立っていた。
設計にあたり、「敷地にもともと生えている樹木をできるだけ残したい」と希望した夫妻。そこで須永さんらは、既存樹木を生かした3つの中庭が住まいに点在するプランを提案した。建物部分に当たってしまう木も、可能な限りこれらの中庭に移植することに。
のびのびと枝葉を伸ばす木々を眺めるガラス張りの中庭は、住まいに光と風を取り込んでくれる装置でもある。何より、廊下やテラス脇に木々が見える環境は、室内に森が挿入されているかのようで、自然に溶け込む感覚をもたらしてくれる。
のびのびと枝葉を伸ばす木々を眺めるガラス張りの中庭は、住まいに光と風を取り込んでくれる装置でもある。何より、廊下やテラス脇に木々が見える環境は、室内に森が挿入されているかのようで、自然に溶け込む感覚をもたらしてくれる。
東西の幅約20mに及ぶおおらかな建物は、地上3階建て。居住空間を2階に配置し、1階は玄関と車庫以外をオープンとした高床構造だ。「生活空間を2階に集約したのは、将来南側に建てるカフェや周囲の別荘からの視線を遮るため。浮いたような構造にすることで地盤面からも視線が抜け、住まい裏手の緑まで見通すことができます。軽井沢特有の湿気対策にも有効ですね」と次郎さん。建物を軽量化することで、地盤改良のコストを削減している。
室内は、テラスや階段を介して立体的に回遊できるプラン。「回遊することで、中庭の樹木をいろいろな角度から眺めて楽しめるんです」と次郎さん。
西側の玄関から、東側のLDKに向かって中庭に挟まれた廊下を進む。突き当たりに見えるのは、シンボルツリーのニレの木をフレーミングして見せる縦長のピクチャーウインドウだ。視線を遠くに導くことで、空間の奥行きがより豊かに感じられる。
住まいの最奥に広がるのは、明るく開放的なLDKだ。ワンルームの空間ながら、屋根勾配が現れた天井の高低差と、リビングとダイニングの段差がゆるやかに場を分かち、随所に落ち着ける居場所を生み出している。
インテリアに合わせた木のキッチンは、カフェ開業に向けて料理やデザートを試作することを想定して、調理スペースが広いオープンタイプに。ゆったりしたアイランド型カウンターで作業しながら、ダイニングにいる人とも会話を楽しめるレイアウトだ。両親や友人が訪れたときに最大8人で囲める無垢材のダイニングテーブルは、長野・飯島町の家具工房「HUMP 」にオーダーした。
インテリアに合わせた木のキッチンは、カフェ開業に向けて料理やデザートを試作することを想定して、調理スペースが広いオープンタイプに。ゆったりしたアイランド型カウンターで作業しながら、ダイニングにいる人とも会話を楽しめるレイアウトだ。両親や友人が訪れたときに最大8人で囲める無垢材のダイニングテーブルは、長野・飯島町の家具工房「HUMP 」にオーダーした。
ダイニングより床レベルを80cm上げたリビングは、ちょうどいいスケール感で落ち着ける空間。手前の段差部分には、「図書館のようなスペースにしたい」という夫妻の希望から、雑誌や本を見せながら収納するオープン棚を造作した。開放的な空間を、薪ストーブと床暖房がじんわりと暖める。
木架構は、在来工法をベースに38×284mmの梁を採用して鉄骨の頬杖(斜めの構造部材)を組み合わせ、木造ながら無柱で壁のない大空間を実現。空間の自由度を高めている。
木架構は、在来工法をベースに38×284mmの梁を採用して鉄骨の頬杖(斜めの構造部材)を組み合わせ、木造ながら無柱で壁のない大空間を実現。空間の自由度を高めている。
リビングの隣には、奥行き約3.6mの広いテラスがフラットに続く。サッシをフルオープンにすれば室内外がひとつながりになり、自然をダイナミックに楽しめる。「長手方向へ視線が抜けるので、より広さを感じます」と次郎さんが話す通り、面積以上の開放感だ。デッキという中間領域を挟むことで外の視線から守られ、さらに室内からの視界の多くを空と枝葉が埋めることで、プライベート感も高めている。
サッシを閉めた際のブラインドは鳥取の「智頭杉」を使った「サカモト」のバーチカルブラインドを選び、木の空間に調和させた。
夫妻のいちばんのこだわりが、テラスに面する「特等席」のバスルームだ。幅の広いスライディングドアを開ければ、森からの風が吹き抜け、まるで露天風呂のような開放感。テラスの奥行きが広くルーバー状の腰壁もあるため、外の視線も気にならない。
バスルームの床は伊豆若草石。しっとりした肌触りで、鮮やかな青みが美しい。
深い軒はともすれば室内が暗くなりがちだ。K邸は中庭の位置に合わせて屋根に透明なポリカーボネートを部分的に使い、室内にほどよく光を取り込んでいる。テラスには普段ハンモックを吊るし、くつろげるセカンドリビングとしているそう。
3階に当たる和室からはテラスに出入りでき、階段を降りれば2階LDKにつながる回遊動線になっている。味わいある手すりの鍛金は、長野県内の鉄作家「taiki工房 」にオーダーしたものだ。
素材使いにもこだわったK邸。「できる限り軽井沢の自然環境に合わせた建築に」という夫妻の希望から、「樹木のなかに溶け込むような色合いや素材を提案しました」と須永さんらは語る。
たとえばファサードは、素材を切り替えることで建物のボリューム感を抑えている。県産のカラマツ材を使った外壁の色彩は素材色と黒の2色を基本にして、存在感を最小限に。縦方向に貼ったのは、樹木の幹に倣ってのこと。
たとえばファサードは、素材を切り替えることで建物のボリューム感を抑えている。県産のカラマツ材を使った外壁の色彩は素材色と黒の2色を基本にして、存在感を最小限に。縦方向に貼ったのは、樹木の幹に倣ってのこと。
床暖房対応の無垢ヒノキ材フローリングも、長野県産を選んだ。
住まいの印象を決める玄関の土間に選んだのは、木曽アルテックの漆木レンガ。拭き漆の仕上げが落ち着いた気品を醸し、木の質感が訪れた人にくつろぎをもたらしてくれる。
別荘地の課題であるプライバシーを守りながら、森の中を回遊するような開放感にあふれた住まい。周囲の木々とともに、これからも豊かな時を重ねていくだろう。
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