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3Dプリンター製の家が世界の住宅危機を救う?
米国のNPOとIT企業がタッグを組み、途上国に「出力」した住宅を建てようとしている。
Erin Carlyle
2018年7月16日
途上国に、雨漏りなどしない、安価で質の高い住宅を提供できないか。このような課題に、米国のNPOとIT企業が驚くべきアイデアで取り組もうとしている。3Dプリンターで家を建てるのだ。
写真: Crown VのRegan Morton
サンフランシスコのNPO〈ニューストーリー〉と、テキサス州オースティンを拠点とする企業〈アイコン〉が共同で手がけたのが、広さ約32.5平方メートルのこちらの家。途上国に供給する3Dプリンター製住宅の試作版として造られた。
ハグラーさんが〈ニューストーリー〉を立ち上げるきっかけになったのは、ハイチを訪れたときにスラム街で暮らす家族と会った体験だった。2015年に仲間とNPOを設立、スタートアップの養成で知られるYコンビネーターの支援を受けた。設立からの3年間で、ハイチ、エルサルバドル、ボリビア、メキシコの計12地区で1300軒の住宅を建設する資金を集めた。すでに850軒を完成させ、入居が済んでいる。
この住宅を地域の職人が建設するのに15日かかった。もっといい方法があるはずだ、とハグラーさんは考えた。「1割程度改善するために設計をどうするか、というレベルの話ではなくて、建てるのにかかるコストと時間を大幅に減らすにはどうしたらいいかを考えました。質を犠牲にせずに、むしろ質を上げながらそれを実現するにはどうしたらいいのか、と」
サンフランシスコのNPO〈ニューストーリー〉と、テキサス州オースティンを拠点とする企業〈アイコン〉が共同で手がけたのが、広さ約32.5平方メートルのこちらの家。途上国に供給する3Dプリンター製住宅の試作版として造られた。
ハグラーさんが〈ニューストーリー〉を立ち上げるきっかけになったのは、ハイチを訪れたときにスラム街で暮らす家族と会った体験だった。2015年に仲間とNPOを設立、スタートアップの養成で知られるYコンビネーターの支援を受けた。設立からの3年間で、ハイチ、エルサルバドル、ボリビア、メキシコの計12地区で1300軒の住宅を建設する資金を集めた。すでに850軒を完成させ、入居が済んでいる。
この住宅を地域の職人が建設するのに15日かかった。もっといい方法があるはずだ、とハグラーさんは考えた。「1割程度改善するために設計をどうするか、というレベルの話ではなくて、建てるのにかかるコストと時間を大幅に減らすにはどうしたらいいかを考えました。質を犠牲にせずに、むしろ質を上げながらそれを実現するにはどうしたらいいのか、と」
写真提供:アイコンとニューストーリー
共通の人脈を通じて、〈ニューストーリー〉チームは3Dプリント技術を手がけていた建設関連技術の企業〈アイコン〉の創業者とつながり、手を組むことになった。〈アイコン〉は3Dプリント技術を携えてアメリカの商業市場に参入し、ひいては宇宙への拡大も目指しているが、〈ニューストーリー〉の住む場所を必要とする世界の人々に住宅を提供したいという思いに共感した。そんな両者が共同で考案したのが、3Dプリンターを使って広さ55~75平方メートル程度の住宅を途上国向けに造る構想だった。
写真の住宅は48時間かからずに出力できた。「Vulcan I」と名づけられた3Dプリンターは6x3.3メートル、重さ900キロの構台式で、レールの上に設置する。独自に配合したコンクリートがプリンターから押し出され、層を積み重ねていく。層と層、壁と壁の間は隙間を残さないように重ねる。
共通の人脈を通じて、〈ニューストーリー〉チームは3Dプリント技術を手がけていた建設関連技術の企業〈アイコン〉の創業者とつながり、手を組むことになった。〈アイコン〉は3Dプリント技術を携えてアメリカの商業市場に参入し、ひいては宇宙への拡大も目指しているが、〈ニューストーリー〉の住む場所を必要とする世界の人々に住宅を提供したいという思いに共感した。そんな両者が共同で考案したのが、3Dプリンターを使って広さ55~75平方メートル程度の住宅を途上国向けに造る構想だった。
写真の住宅は48時間かからずに出力できた。「Vulcan I」と名づけられた3Dプリンターは6x3.3メートル、重さ900キロの構台式で、レールの上に設置する。独自に配合したコンクリートがプリンターから押し出され、層を積み重ねていく。層と層、壁と壁の間は隙間を残さないように重ねる。
基本構造ができあがると、地元オースティンの工務店〈アルケミー〉が屋根、窓、ドアを取り付け、電気配線と配管の工事を行った。これらはすべて従来の住宅と同じものを使用。今回、家の基礎は従来の住宅と同じ工法で建てたが、将来はこれも3Dプリンターで造れるようにする、と〈ニューストーリー〉チーフ・ブランド・オフィサーのサラ・リーさんは話す。今回建てた家はオースティン市の建築基準を満たしており、許可も下りている。
写真提供:ニューストーリー
今回の試作版は、今年3月に開かれたサウス・バイ・サウスウェスト(SXSW、テキサス州オースティンで開かれる、テクノロジー、ビジネス、映画、音楽等の世界的イベント)のために現地で建設した。無事完成したが、途中でトラブルも経験した。コンクリートを押し出して成型するポンプが詰まってしまい、8層ほど塗り重ねるたびに〈アイコン〉のスタッフが詰まりを取り除かなくてはならなかった。
試作版の建設は平らで電源の取りやすい場所でできたが、ハイチやエルサルバドルでは平坦にならされていない土地で家を建てる場合もあるし、停電や嵐にも備えなくてはいけない。現在〈ニューストーリー〉では3Dプリンターを次の段階へアップグレードするための資金を募っている。1軒を24時間以内で建てられるレベルを目指すほか、発電機と、できればソーラーパネルを備えることも視野に入れている。
今回の試作版は、今年3月に開かれたサウス・バイ・サウスウェスト(SXSW、テキサス州オースティンで開かれる、テクノロジー、ビジネス、映画、音楽等の世界的イベント)のために現地で建設した。無事完成したが、途中でトラブルも経験した。コンクリートを押し出して成型するポンプが詰まってしまい、8層ほど塗り重ねるたびに〈アイコン〉のスタッフが詰まりを取り除かなくてはならなかった。
試作版の建設は平らで電源の取りやすい場所でできたが、ハイチやエルサルバドルでは平坦にならされていない土地で家を建てる場合もあるし、停電や嵐にも備えなくてはいけない。現在〈ニューストーリー〉では3Dプリンターを次の段階へアップグレードするための資金を募っている。1軒を24時間以内で建てられるレベルを目指すほか、発電機と、できればソーラーパネルを備えることも視野に入れている。
3Dプリンターによる建設には、従来の工法よりすぐれた点がいくつかあると両者は考えている。
まず、短時間で安くすむ。そのうえ、環境面でもメリットがある。3Dプリンターは必要な分の建材だけを成型するため、ほとんど無駄が出ない。従来の工法では、調達してきた建材を必要な寸法に合わせて裁断し、使わない部分は廃棄される。
建物全体がひとつの容器のようなつくりになっているため、エネルギーや熱が逃げていく隙間は最小限に抑えられている。建材自体もエネルギー効率がいい。コンクリートは石膏ボードなどの乾式壁(ドライウォール)やパーティクルボードよりも頑丈で、サーマルマス(熱容量)が大きい。つまり、熱エネルギーを蓄える力にすぐれ、昼間と夜間の気温差を調整して室内を快適な温度にしてくれる。
まず、短時間で安くすむ。そのうえ、環境面でもメリットがある。3Dプリンターは必要な分の建材だけを成型するため、ほとんど無駄が出ない。従来の工法では、調達してきた建材を必要な寸法に合わせて裁断し、使わない部分は廃棄される。
建物全体がひとつの容器のようなつくりになっているため、エネルギーや熱が逃げていく隙間は最小限に抑えられている。建材自体もエネルギー効率がいい。コンクリートは石膏ボードなどの乾式壁(ドライウォール)やパーティクルボードよりも頑丈で、サーマルマス(熱容量)が大きい。つまり、熱エネルギーを蓄える力にすぐれ、昼間と夜間の気温差を調整して室内を快適な温度にしてくれる。
写真: Crown VのRegan Morton
3Dプリンター住宅は標準的なコンクリートブロック造の家と同じくらいか、それより長くもつと〈アイコン〉ではみている。カーブや傾斜のついたスロープも直線と同じく簡単に出力できるため、コンクリートブロックを積む形の家と比べてデザイン上の自由度も高い。住む人のニーズや好みに合わせてカスタマイズした家ができる。1日2ドル以下で暮らす家族にとって、これまでは得られなかったきめ細やかな恩恵といえる、とハグラーさんは言う。
3Dプリンター住宅は標準的なコンクリートブロック造の家と同じくらいか、それより長くもつと〈アイコン〉ではみている。カーブや傾斜のついたスロープも直線と同じく簡単に出力できるため、コンクリートブロックを積む形の家と比べてデザイン上の自由度も高い。住む人のニーズや好みに合わせてカスタマイズした家ができる。1日2ドル以下で暮らす家族にとって、これまでは得られなかったきめ細やかな恩恵といえる、とハグラーさんは言う。
写真: Crown VのRegan Morton
新技術のマイナス面といえるのが、建築作業に人手がいらない点だ。〈ニューストーリー〉がこれまで手がけてきた住宅建設では、1軒建てるのに4人分の雇用が生まれた。3Dプリンター住宅の場合、2、3人で済んでしまう。
それでも、建設コストが従来手がけてきた家の6500ドル(約73万円)から4000ドル(約45万円)に下がる点を考えれば、建てる戸数が増えることで、必要な人員が減る分を補えるのではないかとハグラーさんは期待を寄せる。3Dプリンターを使った作業は従来の建設作業よりもテクノロジー色が強くなるが、スキルをどう応用できるかはまだ未知数だ。
新技術のマイナス面といえるのが、建築作業に人手がいらない点だ。〈ニューストーリー〉がこれまで手がけてきた住宅建設では、1軒建てるのに4人分の雇用が生まれた。3Dプリンター住宅の場合、2、3人で済んでしまう。
それでも、建設コストが従来手がけてきた家の6500ドル(約73万円)から4000ドル(約45万円)に下がる点を考えれば、建てる戸数が増えることで、必要な人員が減る分を補えるのではないかとハグラーさんは期待を寄せる。3Dプリンターを使った作業は従来の建設作業よりもテクノロジー色が強くなるが、スキルをどう応用できるかはまだ未知数だ。
写真: Crown VのRegan Morton
現在〈ニューストーリー〉では、エルサルバドルに初の3Dプリンター住宅100軒を建設すること、また3Dプリンターを次世代版にグレードアップすることを目指して資金を募っている。今後6ヵ月以内には耐震試験と強度試験を行う予定。リーさんによると、初期の試験では、現在ニューストーリーが使っているシンダーブロックと比べ、3Dプリンター住宅で使用するコンクリートは3倍の強度があったという。
SXSWでの試作版発表にあたり、デザインスタジオ〈バンド・デザイン〉のサラ・バーニーさんが会場のイースト・オースティン地区にふさわしいイメージでインテリアを手がけた。「この地域が持つ、ボヘミアンでチャーミングなアメリカ南西部らしいテイストを取り入れたいと思いました。屋外の雰囲気を室内に取り入れて、家具はミニマルに抑える。途上国に向けたプロジェクトでこの家が使われる用途を考えると、この2点を形にするのを重視しました」とバーニーさん。
インテリアのアイテムは価格が低めの店で調達し、ユーズド品も使って手ごろな費用でそろえた。
ベッド: イケア、 照明とベッド: Amazon
現在〈ニューストーリー〉では、エルサルバドルに初の3Dプリンター住宅100軒を建設すること、また3Dプリンターを次世代版にグレードアップすることを目指して資金を募っている。今後6ヵ月以内には耐震試験と強度試験を行う予定。リーさんによると、初期の試験では、現在ニューストーリーが使っているシンダーブロックと比べ、3Dプリンター住宅で使用するコンクリートは3倍の強度があったという。
SXSWでの試作版発表にあたり、デザインスタジオ〈バンド・デザイン〉のサラ・バーニーさんが会場のイースト・オースティン地区にふさわしいイメージでインテリアを手がけた。「この地域が持つ、ボヘミアンでチャーミングなアメリカ南西部らしいテイストを取り入れたいと思いました。屋外の雰囲気を室内に取り入れて、家具はミニマルに抑える。途上国に向けたプロジェクトでこの家が使われる用途を考えると、この2点を形にするのを重視しました」とバーニーさん。
インテリアのアイテムは価格が低めの店で調達し、ユーズド品も使って手ごろな費用でそろえた。
ベッド: イケア、 照明とベッド: Amazon
写真: Crown VのRegan Morton
写真:ニューストーリー提供
〈ニューストーリー〉への寄付を通じて3D住宅の建設を支援してくれた人には、対象となる現地の家族が紹介され、プロフィールと写真、入居の様子を撮った動画が送られる。自分の寄付がもたらした変化を実感できるしくみだ。
3Dプリンター住宅は、別に土地の建材を使って建てる50軒以上の家と合わせて、ひとつのコミュニティを作る。近くに学校や遊び場がない場合は、〈ニューストーリー〉が現地のパートナーと共同で新たに建設する。家と土地は入居した家族の所有になる。
試作版で建てた家は、今後〈アイコン〉がオフィスとして使う予定だ 。
世界のHouzzから:3Dプリンターが建築と住宅の未来を変える?
〈ニューストーリー〉への寄付を通じて3D住宅の建設を支援してくれた人には、対象となる現地の家族が紹介され、プロフィールと写真、入居の様子を撮った動画が送られる。自分の寄付がもたらした変化を実感できるしくみだ。
3Dプリンター住宅は、別に土地の建材を使って建てる50軒以上の家と合わせて、ひとつのコミュニティを作る。近くに学校や遊び場がない場合は、〈ニューストーリー〉が現地のパートナーと共同で新たに建設する。家と土地は入居した家族の所有になる。
試作版で建てた家は、今後〈アイコン〉がオフィスとして使う予定だ 。
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