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「旭川デザインウィーク」レポート:次世代に問う豊かさの作り方
家具の産地の展示会として通算64回目を迎えた、今年の旭川デザインウィークから、若手作家や地域によるユニークな取り組みをご紹介します。
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2018年9月3日
北海道旭川市とその近郊地域のメーカーが良質な素材と確かな技術で作る(旭川家具〉を中心としたデザインを紹介するイベント「旭川デザインウィーク」。開催期間の6月下旬、メイン会場の旭川デザインセンター以外でも、街中で人気のカフェ「USAGIYA」や、東川小学校などの教育施設、旧東川小学校校舎を利用した複合施設「せんとぴゅあ」などで面白い取り組みが行われていた。前回の記事「注目の国産家具ブランドの今」に続き、今回は地元メーカーから独立した若手作家たちの活動や、小学校で実際に使われていた木工クラフト作家の作品、世界的家具コレクターの織田コレクションなど、旭川デザインの広がりと深さに焦点を当ててみたい。
時間と想いもそれぞれの手作りスプーン
ずらりと並んだスプーンが印象的な〈PLAN DE SPOON -プロが作る木のスプーン達〉のポスター。
〈プラン・ド・ハウス〉のオリジナルプロダクト《Ki-Ita(キイタ)》を使い、さまざまなクリエイターが思い思いのスプーンを作ったものを展示する企画だ。《キイタ》は、木工機械のみでできる加工で作られた、完成一歩手前のキット。購入した人が自身の手で仕上げることによって、愛着をもってほしいという想いを込めて開発された。
ずらりと並んだスプーンが印象的な〈PLAN DE SPOON -プロが作る木のスプーン達〉のポスター。
〈プラン・ド・ハウス〉のオリジナルプロダクト《Ki-Ita(キイタ)》を使い、さまざまなクリエイターが思い思いのスプーンを作ったものを展示する企画だ。《キイタ》は、木工機械のみでできる加工で作られた、完成一歩手前のキット。購入した人が自身の手で仕上げることによって、愛着をもってほしいという想いを込めて開発された。
展示は、制作時間と作った想いが彫り込まれた木のお皿にディスプレイされていた。30分で仕上げた人もいれば1ヶ月かけた人もいる。さまざまなスプーンでお皿の縁をなぞるのも楽しい。
参加者の中に、〈アッシュコンセプト〉の名児耶社長や、〈センプレデザイン〉の田村会長なども名を連ねているのが興味深い。
立場の異なる人が、それぞれの時間を「作る」ことにあてた。時間がものの価値を決める要素として重要なのだとしたら、ある意味とても贅沢なスプーン達だ。
参加者の中に、〈アッシュコンセプト〉の名児耶社長や、〈センプレデザイン〉の田村会長なども名を連ねているのが興味深い。
立場の異なる人が、それぞれの時間を「作る」ことにあてた。時間がものの価値を決める要素として重要なのだとしたら、ある意味とても贅沢なスプーン達だ。
日本の美しい木工家具の粋を集めて
地元で人気の日本茶カフェ〈USAGIYA〉 で、デンマークの〈Kvadrat(クヴァドラ)〉の生地を張った旭川家具が展示された、「Asahikawa furniture and Kvadrat at Usagiya」の展示の様子。
オリジナルボトルを購入すると、日本茶を定額制で楽しめるユニークなサービスのある〈USAGIYA〉には、日中近隣のオフィスの人が多数立ち寄る。日々の何気ない場面で使ってもらうことで、デザインを身近に感じられる企画となっていた。
写真手前のカウンター前に写っているハイスツールは〈匠工芸〉の業天昭人氏デザイン《AGシリーズ》ハイスツール、奥には《マッシュルームスツール》が見える。天井には〈クヴァドラ〉のオリジナルプロダクト《クラウド》も。
両企画を手がけた地元クリエイターの近藤俊介氏は「フオリサローネのような盛り上がりと広がりを、地元の仲間達とつくり出したい」と語ってくれた。
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旭川デザインウィーク」レポート:注目の国産家具ブランドの今
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〈匠工芸〉の《マッシュルームスツール》は、高さ展開が豊富で、スタッキングもできる人気のアイテム。シンプルで軽快なデザインながら、手にとった人が満足感を得られるのは、旭川の木工技術の仕上げの丁寧さによるものだ。
こだわる人には納得のできる製品を、そして品質と買いやすさのバランスを求める人にも十分な満足を与えられる、同社の新しい方向性となる象徴的なアイテムだ。
こだわる人には納得のできる製品を、そして品質と買いやすさのバランスを求める人にも十分な満足を与えられる、同社の新しい方向性となる象徴的なアイテムだ。
こちらも〈USAGIYA〉で展示されていた〈匠工芸〉の《スプレッド》。 2014年「国際家具デザインコンペティション旭川」シルバーリーフ受賞者の松岡智之氏によるデザイン。低めのゆったりとしたスタイルは、どことなく日本的なくつろぎを感じさせ、魅力的だ。
次世代のものづくりの土壌を教育現場からつくる試み
メイン会場の旭川デザインセンターとは異なる雰囲気の中で、実際に使われている様子を見るのも楽しい。
東川町立東川小学校および東川町地域交流センターでは、旭川家具が身近なところで使われていた。広い廊下や、ちょっとした溜まり場のような場所には、一脚一脚異なる椅子やスツールが贅沢に並んでおり、子どもたちは学年の垣根を越えて、好きな椅子に座って宿題に取り組んでいた。
写真は、一人でデザイン、製作、販売を手がける家具工房〈工房宮地〉 の《ラ・トロア》。一直線にも、大きな六角形にも並べられる軽やかなスツールで、6脚までスタッキング可能、グッドデザイン賞も受賞している。
メイン会場の旭川デザインセンターとは異なる雰囲気の中で、実際に使われている様子を見るのも楽しい。
東川町立東川小学校および東川町地域交流センターでは、旭川家具が身近なところで使われていた。広い廊下や、ちょっとした溜まり場のような場所には、一脚一脚異なる椅子やスツールが贅沢に並んでおり、子どもたちは学年の垣根を越えて、好きな椅子に座って宿題に取り組んでいた。
写真は、一人でデザイン、製作、販売を手がける家具工房〈工房宮地〉 の《ラ・トロア》。一直線にも、大きな六角形にも並べられる軽やかなスツールで、6脚までスタッキング可能、グッドデザイン賞も受賞している。
こちらも一人でデザイン、製作、販売を手がける家具工房〈木魂〉の《YUUKIスツール》。緻密な格子の座面が特徴で、綿密な設計のうえに切り出されたパーツを、丁寧に組み上げて作られたもの。表面を傷つけないようやさしく叩いて、ぴっちりとはめ込んでいく「木殺し」という技法を用いている。
スラリと伸びた4本のテーパー脚は、軽量化と見た目のすっきり感をかなえている。曲線を描く座面と、手にもやさしい丸みを帯びた背もたれが、美しいコントラストを生み出していた。
スラリと伸びた4本のテーパー脚は、軽量化と見た目のすっきり感をかなえている。曲線を描く座面と、手にもやさしい丸みを帯びた背もたれが、美しいコントラストを生み出していた。
平屋建ての校舎は、大きな吹き抜けがリズミカルに繋がっている設計。その屋根を見上げると、本物さながらの羽ばたきを見せるモビールが雄大に舞っていた。
作品は、北海道東川町で活動する木工クラフトアーティスト、早見賢二氏によるもの。樹種もさまざまな木肌の自然な色合いを使い分け、見事に表現されている。子ども達が普段何気なく接していたもののの豊かさに気がつき、慈しみ、育てる土壌になることを、街全体が願っている様子が伝わってくる光景だった。
作品は、北海道東川町で活動する木工クラフトアーティスト、早見賢二氏によるもの。樹種もさまざまな木肌の自然な色合いを使い分け、見事に表現されている。子ども達が普段何気なく接していたもののの豊かさに気がつき、慈しみ、育てる土壌になることを、街全体が願っている様子が伝わってくる光景だった。
家具・工芸デザイン史の奥深さを知る展示
旧東川小学校校舎を改修し、多様な交流の拠点となる施設として2016年10月にオープンした「せんとぴゅあ」では、日本スウェーデン外交関係樹立150周年を記念して、「スウェディッシュ・グレイス」展が開催されている。
北欧近代建築の礎を築いた建築家エリック・グンナール・アスプルンドや、家具デザイナーブルーノ・マットソンがデザインした椅子、シグネ・ペーション・メリンやインゲヤード・ローマンなどによるガラスやセラミックの作品など、200点以上が展示されている。20世紀の優れたインテリアデザインで知られる「織田コレクション」 からの出展を通して、北欧スウェーデンという風土が生んだデザインの優雅さを展示。 椅子研究家の織田憲嗣氏による、秀逸なキャプションが展示物一つ一つについており、アーカイブからデザインを学べる、素晴らしい環境が整っていた。
旧東川小学校校舎を改修し、多様な交流の拠点となる施設として2016年10月にオープンした「せんとぴゅあ」では、日本スウェーデン外交関係樹立150周年を記念して、「スウェディッシュ・グレイス」展が開催されている。
北欧近代建築の礎を築いた建築家エリック・グンナール・アスプルンドや、家具デザイナーブルーノ・マットソンがデザインした椅子、シグネ・ペーション・メリンやインゲヤード・ローマンなどによるガラスやセラミックの作品など、200点以上が展示されている。20世紀の優れたインテリアデザインで知られる「織田コレクション」 からの出展を通して、北欧スウェーデンという風土が生んだデザインの優雅さを展示。 椅子研究家の織田憲嗣氏による、秀逸なキャプションが展示物一つ一つについており、アーカイブからデザインを学べる、素晴らしい環境が整っていた。
旭川家具のメーカーをまたいで行う旭川デザインウィーク2018のまとめ役は、〈ササキ工芸〉だった。去年まで同役を務めていた、大規模な工場を持つ〈カンディハウス〉ではなく、今年は木工クラフトを得意とする同社が先頭に立つという構造に、個人的には惹かれるものがあった。写真は、〈ササキ工芸〉で人気のドアメロディー《てんとうむし》。優しい音が心地よい。
旭川デザインセンターでは、家具もドアチャイムも、モビールも、大掛かりなホテルプロジェクトも同一空間で体験することができ、デザインで繋がったその風通しのよさは、旭川家具の心地よさにも通じるように感じた。
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プロダクトデザインの未来、世界に羽ばたく若手デザイナーの活動
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