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「旭川デザインウィーク」レポート:注目の国産家具ブランドの今
家具の産地の展示会としては通算64回目、リニューアルしてからは4回目となる旭川デザインウィーク。今年の話題となったアイテムやトピックをご紹介します。
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2018年8月5日
全国有数の家具産地のひとつに数えられる北海道旭川市。〈旭川家具〉とは、一企業のブランドではなく、旭川市と東川、東神楽などの近郊地域に存在するメーカーが製造する家具を総称するブランド名だ。良質な素材と高度な技術に、美しいデザインとすぐれた機能を重視したシンプルなデザインを特徴とする。
そんな旭川家具を中心としたデザインを紹介するのが「旭川デザインウィーク」。6月20日〜24日の開催期間中には、人口34万人の旭川市に16,500名(2016年比157%)もの人が訪れた。メイン会場の旭川デザインセンターには、旭川で開かれてきた国際コンペ〈IFDA〉(International Furniture Design Fair Asahikawa)の入賞入選作品を製品化した家具など、45のメーカーや団体の新作が展示された。家具だけでなく、アーティストによるインスタレーションや、新しい日本らしさをグローバルに提案するホテルプロジェクトも登場。展示家具でスタイリングされたインテリアの中でいただく、旭川の食材を使ったトライアルディナーなど、より五感に訴えかける豊かさをグローバルに発信する試みも数多く開催された。国内外から集まった多くのデザイナーやメーカーに、工場や展示場、パーティーで直接話を聞けるのもこのイベントの魅力だ。なぜ旭川が熱気に包まれているのか? 2回にわたって紹介しよう。
そんな旭川家具を中心としたデザインを紹介するのが「旭川デザインウィーク」。6月20日〜24日の開催期間中には、人口34万人の旭川市に16,500名(2016年比157%)もの人が訪れた。メイン会場の旭川デザインセンターには、旭川で開かれてきた国際コンペ〈IFDA〉(International Furniture Design Fair Asahikawa)の入賞入選作品を製品化した家具など、45のメーカーや団体の新作が展示された。家具だけでなく、アーティストによるインスタレーションや、新しい日本らしさをグローバルに提案するホテルプロジェクトも登場。展示家具でスタイリングされたインテリアの中でいただく、旭川の食材を使ったトライアルディナーなど、より五感に訴えかける豊かさをグローバルに発信する試みも数多く開催された。国内外から集まった多くのデザイナーやメーカーに、工場や展示場、パーティーで直接話を聞けるのもこのイベントの魅力だ。なぜ旭川が熱気に包まれているのか? 2回にわたって紹介しよう。
自然との共生をイメージしたインスタレーション
メイン会場である旭川デザインセンターで表情豊かに出迎えてくれたのは、アーティストユニット〈デイジーバルーン〉 による風船を使ったインスタレーション、《ヒトトモリ》。人と自然の共生を表現する作品だ。3部構成で空間を大きく使い、大雪山からの雪解け水と、森への繋がりをイメージした伸びやかな造形が会場を華やかに彩っていた。2階へ続くDNAをイメージソースとした二重螺旋の先には、バルーンの中から家具が生えているような、来場者も参加できるインタラクティブな展示となっていた。
メイン会場である旭川デザインセンターで表情豊かに出迎えてくれたのは、アーティストユニット〈デイジーバルーン〉 による風船を使ったインスタレーション、《ヒトトモリ》。人と自然の共生を表現する作品だ。3部構成で空間を大きく使い、大雪山からの雪解け水と、森への繋がりをイメージした伸びやかな造形が会場を華やかに彩っていた。2階へ続くDNAをイメージソースとした二重螺旋の先には、バルーンの中から家具が生えているような、来場者も参加できるインタラクティブな展示となっていた。
きめこまやかな日本流「おもてなし」空間
2020年の東京オリンピックに向け、「おもてなし」の象徴でもあるホテル空間を考える動きが広がっている。そのようなニーズに対して、旭川ブランドが持つ開発能力を活かした〈ホテルスペースプロジェクト〉の提案が展示された。
空間デザイナー成ヶ澤伸幸氏によって、タオルやアロマグッズなどの小物まで気配りされた最新トレンドの設備や素材とともに、そのまま泊まりたくなるような心地よい一室をつくりあげていた。
家具のデザインは、世界的なデザイナー喜多俊之氏によるもの。地元メーカー9社がそれぞれのアイテムを作り、〈エフ・ドライブデザイン〉の塗料や最終仕上げを揃えた家具は、完成度もさることながら、別々の企業の工場で作られたとは思えないほど統一感があった。
写真後方に見えるベッドは、1986年、パリのポンピドーセンター10周年記念招待作品として出品した《二畳結界》を発展させたもの。今回のオリジナルベッドの周囲を縁側のようにぐるりと囲むベンチは、脛を打たない高さが座りやすく、新鮮。従来ならベッドの足元にベンチを置くことで果たしていた機能、たとえば着替えるときの腰掛けや寝る前のお喋りにも便利だ。
2020年の東京オリンピックに向け、「おもてなし」の象徴でもあるホテル空間を考える動きが広がっている。そのようなニーズに対して、旭川ブランドが持つ開発能力を活かした〈ホテルスペースプロジェクト〉の提案が展示された。
空間デザイナー成ヶ澤伸幸氏によって、タオルやアロマグッズなどの小物まで気配りされた最新トレンドの設備や素材とともに、そのまま泊まりたくなるような心地よい一室をつくりあげていた。
家具のデザインは、世界的なデザイナー喜多俊之氏によるもの。地元メーカー9社がそれぞれのアイテムを作り、〈エフ・ドライブデザイン〉の塗料や最終仕上げを揃えた家具は、完成度もさることながら、別々の企業の工場で作られたとは思えないほど統一感があった。
写真後方に見えるベッドは、1986年、パリのポンピドーセンター10周年記念招待作品として出品した《二畳結界》を発展させたもの。今回のオリジナルベッドの周囲を縁側のようにぐるりと囲むベンチは、脛を打たない高さが座りやすく、新鮮。従来ならベッドの足元にベンチを置くことで果たしていた機能、たとえば着替えるときの腰掛けや寝る前のお喋りにも便利だ。
喜多氏は「日本らしさのある『次のデザイン』をテーマにした」と言う。なかでも目を惹いたのがこちらの置き式クローゼット。スーツケースが置けて、その場でハンガーに着替えを掛けられるうえ、鏡もついている。近年増えつつある都市部の空きビルを利用した宿泊施設の提案として、工事の必要がない置き家具でホテルの機能を持たせることもできるアイテムだ。
専用の置き場がないと、ついスーツケースをベッドに広げて、荷物整理をすることになる。その場合、収納まで衣類を持ち歩いて何度も往復しなくてはならない。また、海外のスーツケース置き場は耐久性の問題でスチール製が多く、スーツケースに傷がつくこともあるが、ファブリック張りにすることで解消される。それらが一体になっているこの家具があれば、おしゃれしてすぐに出かけられる。海外出張の多い喜多氏ならではの発想だ。
地元材と技術、そして機能性とシンプルに徹した家具デザイン。どの家具も木質の仕上げが使い心地よく、日本流の新しいおもてなしスタイルの可能性を感じさせる。
専用の置き場がないと、ついスーツケースをベッドに広げて、荷物整理をすることになる。その場合、収納まで衣類を持ち歩いて何度も往復しなくてはならない。また、海外のスーツケース置き場は耐久性の問題でスチール製が多く、スーツケースに傷がつくこともあるが、ファブリック張りにすることで解消される。それらが一体になっているこの家具があれば、おしゃれしてすぐに出かけられる。海外出張の多い喜多氏ならではの発想だ。
地元材と技術、そして機能性とシンプルに徹した家具デザイン。どの家具も木質の仕上げが使い心地よく、日本流の新しいおもてなしスタイルの可能性を感じさせる。
地元産のインテリアと食の体験スペース
旭川産の雄大な土地と、豊かさが感じられる初の試み〈旭川トライアルディナー〉が予約制で行われた。出展メーカーをまたいでスタイリングされた旭川の家具は、インスタレーションに彩られ、洗練された空間の雰囲気をつくり出していた。
旭川の地元食材をフルコースでいただくという体験を通して、水が育む森や、素材を素直に活かして作り出す「手仕事の豊かさ」を感じられる特別な経験となった。
旭川産の雄大な土地と、豊かさが感じられる初の試み〈旭川トライアルディナー〉が予約制で行われた。出展メーカーをまたいでスタイリングされた旭川の家具は、インスタレーションに彩られ、洗練された空間の雰囲気をつくり出していた。
旭川の地元食材をフルコースでいただくという体験を通して、水が育む森や、素材を素直に活かして作り出す「手仕事の豊かさ」を感じられる特別な経験となった。
新たな可能性を感じさせるキッズ家具
〈大雪木工〉が、小泉誠氏(家具デザイン)、村田一樹氏(グラフィック)、平塚智恵美氏(コーディネート)等と取り組む「大雪の大切プロジェクト」。「モノづくりを続けるために、大切なことは何だろう」と探求し続け、3年目に突入する。そこから生まれた「北海道産ハンの木シリーズ」に、キッズチェアが新たなアイテムとして加わった。
ハンの木は木肌に特有の表情があるため好みが分かれるというが、広葉樹ながら軽いのが特徴。カバ材で作られた同じデザインのものと持ち比べると、その軽さを実感できた。子どもが自分で椅子を引くことができる軽さと強度のバランスが、デザインのポイントになっている。高さ調節、クッション取り外し可能と機能面も優れている。
〈大雪木工〉が、小泉誠氏(家具デザイン)、村田一樹氏(グラフィック)、平塚智恵美氏(コーディネート)等と取り組む「大雪の大切プロジェクト」。「モノづくりを続けるために、大切なことは何だろう」と探求し続け、3年目に突入する。そこから生まれた「北海道産ハンの木シリーズ」に、キッズチェアが新たなアイテムとして加わった。
ハンの木は木肌に特有の表情があるため好みが分かれるというが、広葉樹ながら軽いのが特徴。カバ材で作られた同じデザインのものと持ち比べると、その軽さを実感できた。子どもが自分で椅子を引くことができる軽さと強度のバランスが、デザインのポイントになっている。高さ調節、クッション取り外し可能と機能面も優れている。
「大雪の大切プロジェクト」のもうひとつの展示テーマは「途中」。写真は、突き板貼り加工を得意とする〈大雪木工〉らしい、さまざまな素材を仕上げに貼った実験の美しいインスタレーション。
スチールに突き板を貼ることで磁石がつく扉や、ガラスに突き板を貼ることでリモコンの赤外線も透過するなど、機能重視のアイテムが充実。ほかにも鯉のぼりや、子どもの作品を貼ったキャビネットも展示されていた。思い出を素材として飾る提案としては意外にもモダンな仕上がりで、新しい可能性を感じた。
スチールに突き板を貼ることで磁石がつく扉や、ガラスに突き板を貼ることでリモコンの赤外線も透過するなど、機能重視のアイテムが充実。ほかにも鯉のぼりや、子どもの作品を貼ったキャビネットも展示されていた。思い出を素材として飾る提案としては意外にもモダンな仕上がりで、新しい可能性を感じた。
こちらは〈IFDA 2005〉で「シルバーリーフ賞」を受賞した、デイビッド・トゥルブリッジ氏の《キナライト》を進化させた椅子にもローテーブルにもなる《KINA LUX(キナ ラックス)》をお披露目。
ウニにインスパイアされた繊細な造形美と、テーブルや椅子としての強度と存在感を〈カンディハウス〉の開発力で実現したアイテム。光によって、映り込む影と、キナ フロアとの対比が美しく、ポエティックなコーナーになっていた。
ウニにインスパイアされた繊細な造形美と、テーブルや椅子としての強度と存在感を〈カンディハウス〉の開発力で実現したアイテム。光によって、映り込む影と、キナ フロアとの対比が美しく、ポエティックなコーナーになっていた。
旭川から世界に向けて発信する、話題の新作椅子の数々
小林幹也氏の新しいオリジナルブランド〈インプリメンツ〉第1弾の新作アイテム《SKIFF(スキフ)》が発表された。旭川の〈ワカサ〉と、〈シロロデザイン〉の近藤俊介氏の協力のもと、シンプルながら後ろ姿が繊細で美しいダイニングチェアに仕上がっていた。肘をのせるアームは、ダイニングテーブルにも収まる形状で、同デザインのハイスツールも今後展開を予定している。
小林幹也氏の新しいオリジナルブランド〈インプリメンツ〉第1弾の新作アイテム《SKIFF(スキフ)》が発表された。旭川の〈ワカサ〉と、〈シロロデザイン〉の近藤俊介氏の協力のもと、シンプルながら後ろ姿が繊細で美しいダイニングチェアに仕上がっていた。肘をのせるアームは、ダイニングテーブルにも収まる形状で、同デザインのハイスツールも今後展開を予定している。
〈匠工芸〉からは、インハウスデザイナーの業天昭人氏による〈AGシリーズ〉が発表された。背のあたる部分が心地よい弾力で体を支える。3脚までスタッキングも可能だ。公共施設やレジャー施設、企業などの商業施設などでの利用も念頭に置いた機能性と耐久性、作りやすさも考慮されたデザインとなっている。
写真は《AGシリーズ サイドチェア》と業天昭人氏。他にラウンジチェア、バースツールの3モデルを開発。
地元出身のデザイナーが企業に属しながら特徴ある活躍を見せている。インハウスデザイナーとして名前を出して活動をすることは、才能を開花させる土壌として大きな可能性を感じる。今後のものづくりにもよい影響をもたらすのではないだろうか。
写真は《AGシリーズ サイドチェア》と業天昭人氏。他にラウンジチェア、バースツールの3モデルを開発。
地元出身のデザイナーが企業に属しながら特徴ある活躍を見せている。インハウスデザイナーとして名前を出して活動をすることは、才能を開花させる土壌として大きな可能性を感じる。今後のものづくりにもよい影響をもたらすのではないだろうか。
〈IFDA 2017〉での入選作、牧野仁氏による《アークチェア》。特注家具メーカー〈ワカサ〉が、牧野氏と立ち上げたオリジナルブランド〈USCITA(ウシータ)〉の第1号シリーズとなる。
低めのゆったりとした座面ながら、和風に寄らないデザインがユニークな存在感のあるラウンジチェア。旭川が世界に向けて提案するアイテムの方向性を示している。
低めのゆったりとした座面ながら、和風に寄らないデザインがユニークな存在感のあるラウンジチェア。旭川が世界に向けて提案するアイテムの方向性を示している。
気になるブランドの家具工場を見学
恒例のオープンファクトリーもお楽しみのひとつ。今年創設10周年を迎えた〈アルフレックス〉 旭川ファクトリー。広大な工場では、生地の検品、裁断、縫製、構造体となる「モールドウレタン」の発泡、組み立て、検品まで、ソファづくりのすべてが一貫して行われている。
特筆すべきは、それぞれのソファ製品に託された座り心地の追求。「モールドウレタン」とは、非常に高額な金型への設備投資が必要な製法。ロングセラーを生み出すことへの覚悟を感じさせる。創業当時からの全アイテムの型紙も保管され、同社製品ならばどんな昔のアイテムでも対応できるという。企業姿勢も一貫した潔さだ。
恒例のオープンファクトリーもお楽しみのひとつ。今年創設10周年を迎えた〈アルフレックス〉 旭川ファクトリー。広大な工場では、生地の検品、裁断、縫製、構造体となる「モールドウレタン」の発泡、組み立て、検品まで、ソファづくりのすべてが一貫して行われている。
特筆すべきは、それぞれのソファ製品に託された座り心地の追求。「モールドウレタン」とは、非常に高額な金型への設備投資が必要な製法。ロングセラーを生み出すことへの覚悟を感じさせる。創業当時からの全アイテムの型紙も保管され、同社製品ならばどんな昔のアイテムでも対応できるという。企業姿勢も一貫した潔さだ。
こちらは〈カンディハウス〉のヒストリールーム。ぐるりと壁一面を囲む棚には、創業者の故・長原氏のスケッチや青焼き図面などが飾られており、古くからデザインをどれだけ大事に考えていたのかが感じられる展示となっている。
長原氏の尽力で、木工の街、旭川で国際的な家具コンペティションが開かれ、優秀な才能が国内外から集まり、旭川のものづくりを世界レベルに引き上げている。そういった息吹が確実に引き継がれているのが、旭川の活気の源なのだと実感する特別な空間だった。
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