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人生100年時代の住宅術
人生100年時代とは、単に人生が長くなるだけではなく、ステージによって住まいのあり方も変わるはずーー 人生100年時代の住宅の姿をあなたならどう思い描くでしょうか。
大村哲弥
2018年7月3日
不動産・建築・住宅に関するコンセプト開発・商品企画・デザインなどを手がける有限会社プロジェ代表。一級建築士。http://www.projet-ltd.co.jp/
ブロガー。言葉とモノをめぐるブログ<Tokyo Culture Addiction>http://c-addiction.typepad.jp/blog/と料理ブログ<チキテオ>http://c-addiction.typepad.jp/txikiteo/を主宰。
不動産・建築・住宅に関するコンセプト開発・商品企画・デザインなどを手がける有限会社プロジェ代表。一級建築士。
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『LIFE SHIFT(ライフ・シフト)-100年時代の人生戦略』(リンダ・グラットン、アンドリュー・スコット著、東洋経済新報社、2016年)の出版がきっかけとなり、人生100年時代ということが盛んに言われるようになってきました。
2017年9月には政府による「人生100年時代構想会議※」もスタートするなど、幅広い分野で注目が集まっています。
人々が注目する背景にあるのが、デジタル情報通信化(IT革命)の進展と長寿高齢化により、これまでの働き方や人生設計が劇的に変化するだろうという予感と不安です。
人生100年時代において住宅はどうなるのでしょうか。今回は近未来に目を向けて、これからの住宅の姿を大胆に思い描いてみます。
※リカレント(学び直し)教育や人材採用の多元化を軸とした政府の提案。
2017年9月には政府による「人生100年時代構想会議※」もスタートするなど、幅広い分野で注目が集まっています。
人々が注目する背景にあるのが、デジタル情報通信化(IT革命)の進展と長寿高齢化により、これまでの働き方や人生設計が劇的に変化するだろうという予感と不安です。
人生100年時代において住宅はどうなるのでしょうか。今回は近未来に目を向けて、これからの住宅の姿を大胆に思い描いてみます。
※リカレント(学び直し)教育や人材採用の多元化を軸とした政府の提案。
住宅のマルチステージ化
リンダ・グラットンらは前掲書において、人生100年時代の長い老後を有意義に過ごすには、これまでの働き方とそこから得られる収入や年金だけでは不十分であり、結果的に若いときに学んで、ひとつの職場や職業に従事し、その蓄積で老後を過ごす、というこれまで当たり前と思われてきた人生設計が変らざるを得ないと主張しています。
そして人生100年時代にふさわしい生き方として、年齢に応じて「教育」「仕事」「引退」という3つのステージを順に歩むというこれまでのライフステージの概念に代わる新たなステージの考え方が提起されます。
新たなステージとして提起されるのが、今までとは別の自分や未知の世界を探求するステージ(エクスプローラー)、自ら新たなことを始める自己プロデュースのステージ(インデペンデント・プロデューサー)、複数の仕事を並行させるステージ(ポートフォリオ・ワーカー)であり、人はこれら複数のステージを年齢によらずに常に行き来しながら、ひとりの人が複数の人生を生きる、人生のマルチステージ化の時代が到来すると述べています。
長い人生を安心して暮らすには、お金などの有形資産が大切なことは言うまでのありませんが、こうした新しいステージを生き抜いていくためには、無形資産がこれまで以上に重要になるとも言っています。
重要度が増す無形資産として挙げられているのが、「生産性資産」(スキルや仕事のつながりなど)、「活力資産」(健康や幸福や友人など)、「変身資産」(仕事や人生を変えるための意思やネットワークなど)です。
人生100年時代とは、単に人生が長くなるだけではなく、年齢を問わず学び直し、新しいことを探求し続け、自らを自在に変身させる能力が求められる時代といえるでしょう。
リンダ・グラットンらは前掲書において、人生100年時代の長い老後を有意義に過ごすには、これまでの働き方とそこから得られる収入や年金だけでは不十分であり、結果的に若いときに学んで、ひとつの職場や職業に従事し、その蓄積で老後を過ごす、というこれまで当たり前と思われてきた人生設計が変らざるを得ないと主張しています。
そして人生100年時代にふさわしい生き方として、年齢に応じて「教育」「仕事」「引退」という3つのステージを順に歩むというこれまでのライフステージの概念に代わる新たなステージの考え方が提起されます。
新たなステージとして提起されるのが、今までとは別の自分や未知の世界を探求するステージ(エクスプローラー)、自ら新たなことを始める自己プロデュースのステージ(インデペンデント・プロデューサー)、複数の仕事を並行させるステージ(ポートフォリオ・ワーカー)であり、人はこれら複数のステージを年齢によらずに常に行き来しながら、ひとりの人が複数の人生を生きる、人生のマルチステージ化の時代が到来すると述べています。
長い人生を安心して暮らすには、お金などの有形資産が大切なことは言うまでのありませんが、こうした新しいステージを生き抜いていくためには、無形資産がこれまで以上に重要になるとも言っています。
重要度が増す無形資産として挙げられているのが、「生産性資産」(スキルや仕事のつながりなど)、「活力資産」(健康や幸福や友人など)、「変身資産」(仕事や人生を変えるための意思やネットワークなど)です。
人生100年時代とは、単に人生が長くなるだけではなく、年齢を問わず学び直し、新しいことを探求し続け、自らを自在に変身させる能力が求められる時代といえるでしょう。
これまで住宅は、「教育」「仕事」「引退」という直線的に流れる人生の拠点として、どちらかというと、固定的で安定的な機能をもって語られてきました。
30歳前後で住宅を手に入れて、その後リフォームや建て替えをしながら、あるいは住み替えをしながら40~50年間を1つか2つの住宅で暮らすという居住パターンは、これまでの人生80年時代には、それなりにふさわしいパターンだったといえます。
人生のマルチステージ化が求められる時代には、こうした居住パターンやそれを前提とした機能の住宅では不十分になってくると考えられます。
人生100年時代の住宅のあり方のひとつが、住宅も人生同様にマルチステージ化することです。
人生が長くなり、仕事や人生がマルチ化するなかで、住宅についてもひとつの場所やひとつの建物にこだわることは、現実的ではなくなってくるでしょう。
その時々のワークスタイルや人生目的や収入にふさわしい住宅をフレキシブルに複数住みつないでいく住まい方、あるいは、複数化する仕事や生きがいにふさわしい拠点を、それぞれに構える多拠点型住宅スタイルなどが進展するでしょう。
同じ建物を長期に利用する場合でも、大胆なリノベーションや減築・増築・改築・建て替えなどによって、長い人生で変化するライフステージに合わせた機能更新や、さらには別の住み手や別のライフスタイルに対応できるような機能刷新が不可欠になってきます。
30歳前後で住宅を手に入れて、その後リフォームや建て替えをしながら、あるいは住み替えをしながら40~50年間を1つか2つの住宅で暮らすという居住パターンは、これまでの人生80年時代には、それなりにふさわしいパターンだったといえます。
人生のマルチステージ化が求められる時代には、こうした居住パターンやそれを前提とした機能の住宅では不十分になってくると考えられます。
人生100年時代の住宅のあり方のひとつが、住宅も人生同様にマルチステージ化することです。
人生が長くなり、仕事や人生がマルチ化するなかで、住宅についてもひとつの場所やひとつの建物にこだわることは、現実的ではなくなってくるでしょう。
その時々のワークスタイルや人生目的や収入にふさわしい住宅をフレキシブルに複数住みつないでいく住まい方、あるいは、複数化する仕事や生きがいにふさわしい拠点を、それぞれに構える多拠点型住宅スタイルなどが進展するでしょう。
同じ建物を長期に利用する場合でも、大胆なリノベーションや減築・増築・改築・建て替えなどによって、長い人生で変化するライフステージに合わせた機能更新や、さらには別の住み手や別のライフスタイルに対応できるような機能刷新が不可欠になってきます。
住宅の非住宅化
ふたつ目のキーワードは、住宅の非住宅化です。従来の狭義の機能にとらわれない非住宅的住宅が一般化してくるでしょう。
これまで住宅と仕事はコインの表裏のように別の場所、別の建物として分離されていました。働く場と住む場は別という職住分離の常識も、人生100年時代においては変わらざるを得なくなります。
例えば、会社に勤めながら住まいをワークスペースとして兼用して、マルチワークをこなす、住宅にオフィスやショップを併設して、本格的なダブルワークを実践する、住まいの一部を賃貸や民泊やシェアルームとして活用し、その収益で貯蓄や自己投資を始める、あるいは、家自体を収益不動産に転用しその収益で自己実現にチャレンジするなど、住まいと仕事の境目は曖昧になり、その結果、住宅とオフィスやショップや収益不動産などの非住宅が融合してくるものと予想されます。
仕事はオフィスでするもの、住宅は家族の暮らしの場という、職住分離の考え方は決して当たり前ではなく、会社勤めなどの賃金労働が主流になる近代以前は、農業をはじめ商業や工業においても職住一体がむしろ当たり前であったことを思えば、こうした住宅の非住宅化は、決して新奇な姿ではないことがわかります。
すでにIT技術の暮らしへの浸透により、ノマドワークやテレワークなどの新しい働き方が始まっています。働く場のオフィスの外への拡大と在宅ワークの普及など、住宅の非住宅化はすでに現実化しているといえます。
ふたつ目のキーワードは、住宅の非住宅化です。従来の狭義の機能にとらわれない非住宅的住宅が一般化してくるでしょう。
これまで住宅と仕事はコインの表裏のように別の場所、別の建物として分離されていました。働く場と住む場は別という職住分離の常識も、人生100年時代においては変わらざるを得なくなります。
例えば、会社に勤めながら住まいをワークスペースとして兼用して、マルチワークをこなす、住宅にオフィスやショップを併設して、本格的なダブルワークを実践する、住まいの一部を賃貸や民泊やシェアルームとして活用し、その収益で貯蓄や自己投資を始める、あるいは、家自体を収益不動産に転用しその収益で自己実現にチャレンジするなど、住まいと仕事の境目は曖昧になり、その結果、住宅とオフィスやショップや収益不動産などの非住宅が融合してくるものと予想されます。
仕事はオフィスでするもの、住宅は家族の暮らしの場という、職住分離の考え方は決して当たり前ではなく、会社勤めなどの賃金労働が主流になる近代以前は、農業をはじめ商業や工業においても職住一体がむしろ当たり前であったことを思えば、こうした住宅の非住宅化は、決して新奇な姿ではないことがわかります。
すでにIT技術の暮らしへの浸透により、ノマドワークやテレワークなどの新しい働き方が始まっています。働く場のオフィスの外への拡大と在宅ワークの普及など、住宅の非住宅化はすでに現実化しているといえます。
暮らしと住まいの“柔らかさ”が評価されるようになる
マルチステージを自在に行き来し、仕事や人生を変身させるためには、自由度の高いフレキシブルな暮らしや住まいが有利です。
人には住む場所と建物が必要であり、有形資産(固定資産)としての住宅はなくなりませんが、マルチステージを生きる人生100年時代には、硬いイメージ、固定したイメージだった住宅においても、流動性や可変性や自由度など、ある種の“柔らかさ”がむしろ注目されるようになってくるのではないでしょうか。
売却による換金や賃貸利用による収益などが見込める立地性、シェア利用や用途転換などのマルチユースが見込める市場性、コンバーションやリノベーションがしやすい可変性の高い建物など“柔らかさ”を有した住宅が評価されるようになってくると考えられます。
100年単位の発想が可能になることで、耐震性の高い長寿命のスケルトンと可変性、更新性の高いインフィルを組み合わせた、地震国日本にふさわしい、固さと柔らかさを上手くハイブリッドさせたスケルトン・インフィル住宅がいよいよ現実化するかもしれません。
さらには、居住する権利を債権化して、世界中の住宅を自由に住み替えできる究極のグローバル・マルチステージ型住宅、あるいは、グローバル・シェア・ハウジングなど、夢のような住宅も登場してくるかもしれません。
人生100年時代は、最も保守的と言われる住宅が大きく変貌する時代でもあるのではないでしょうか。人生100年時代の住宅の姿をあなたならどう思い描くでしょうか。
建築家を探す
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建築家に住宅の設計を依頼するということ
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