コメント
サステナブルな美しさへ。デンマークデザイン、10年後のすがたとは?
デンマークデザイン家具を取り扱うメーカー各社に、これからのデンマークデザインについて聞きました。
Kasper Iversen
2018年6月22日
デンマークのコペンハーゲンで毎年春に開かれるデザインフェスティバル〈3 デイズ・オブ・デザイン〉は、北欧デザインの来たるシーズンのトレンドを知ることができるイベントだ。今年は5月24日から26日にかけて開催され、90を超える企業やデザイナー、アーティストが参加してワークショップや展示ブース、ギャラリーを開き、最新の照明やインテリアデザイン、ライフスタイルコレクションを披露した。
その年のトレンドを知っておくのと、デンマークデザインが近い将来どの方向に向いていくのかを予測するのはまた別の話になる。例えば2028年の〈3 デイズ・オブ・デザイン〉ではどんなトレンドを目にするだろうか? 誰にも断言はできないが、明確なビジョンをもったデンマークデザインブランドを代表する6人に、この先10年間でどんな変化が起きるか予想してもらった。
その年のトレンドを知っておくのと、デンマークデザインが近い将来どの方向に向いていくのかを予測するのはまた別の話になる。例えば2028年の〈3 デイズ・オブ・デザイン〉ではどんなトレンドを目にするだろうか? 誰にも断言はできないが、明確なビジョンをもったデンマークデザインブランドを代表する6人に、この先10年間でどんな変化が起きるか予想してもらった。
インテリアからライフスタイル全般のコンセプトへ
10年後、デンマークデザインはこれまでにないレベルでストーリー性を打ち出し、全体を網羅した消費者体験を提供することになりそうだ。〈メニュー〉のブランド&デザインディレクター、ヨアキム・コーンベク・エンゲル=ハンセンさんは次のように述べる。「生産すること自体が目的で商品を作る時代はもう終わりです。これまで以上にイノベーションを起こす姿勢が求められ、既存の生産工程を見直す必要が出てくるでしょう。ここデンマークがそうした動きの先頭に立つだろうと思います。新しい挑戦に対してオープンなのがデンマークデザインの精神ですから」
この変化の中心になるのが環境と天然資源で、これからの10年でデザイン面での課題において最も重視される、とエンゲル=ハンセンさんは分析する。「サステナビリティはすでに力を入れて取り組んでいますが、今後、デザイナーや生産者、消費者たちはますます重視するようになると確信しています。どの製品もできるだけサステナブルな形で製造できるよう、最適化をはかっていくことになります」
10年後、デンマークデザインはこれまでにないレベルでストーリー性を打ち出し、全体を網羅した消費者体験を提供することになりそうだ。〈メニュー〉のブランド&デザインディレクター、ヨアキム・コーンベク・エンゲル=ハンセンさんは次のように述べる。「生産すること自体が目的で商品を作る時代はもう終わりです。これまで以上にイノベーションを起こす姿勢が求められ、既存の生産工程を見直す必要が出てくるでしょう。ここデンマークがそうした動きの先頭に立つだろうと思います。新しい挑戦に対してオープンなのがデンマークデザインの精神ですから」
この変化の中心になるのが環境と天然資源で、これからの10年でデザイン面での課題において最も重視される、とエンゲル=ハンセンさんは分析する。「サステナビリティはすでに力を入れて取り組んでいますが、今後、デザイナーや生産者、消費者たちはますます重視するようになると確信しています。どの製品もできるだけサステナブルな形で製造できるよう、最適化をはかっていくことになります」
デジタル技術も今後の鍵になる。「以前は明確なメッセージをひとつ打ち出すことが重要でしたが、ソーシャルメディア時代の今は、新しいメッセージ、新しいストーリーを日々フォロワーに向けて発信することができます」
ストーリー性を打ち出す動きも、別の形ですでに始まっている。〈メニュー〉では現在、コペンハーゲンのノールハウン地区(市内の北端にあり、急速に再開発が進められている注目エリア)で、ホテル、レストラン、カフェが一体となった複合施設全体のデザインを手がけていて、自分たちのデザインを取り入れ、その美学をすみずみにまで反映させている。「こうしたコンセプトはデザイン業界の他分野にも拡大していくはずです。企業とデザイナーは業種を超えて連携し、さまざまな分野のデザインを包括的に創造していくことになるでしょう」とエンゲル=ハンセンさんはいう。
ストーリー性を打ち出す動きも、別の形ですでに始まっている。〈メニュー〉では現在、コペンハーゲンのノールハウン地区(市内の北端にあり、急速に再開発が進められている注目エリア)で、ホテル、レストラン、カフェが一体となった複合施設全体のデザインを手がけていて、自分たちのデザインを取り入れ、その美学をすみずみにまで反映させている。「こうしたコンセプトはデザイン業界の他分野にも拡大していくはずです。企業とデザイナーは業種を超えて連携し、さまざまな分野のデザインを包括的に創造していくことになるでしょう」とエンゲル=ハンセンさんはいう。
サステナビリティ、そして乾燥させた象のふんでできた照明
「サステナビリティが今よりさらに重要な役割を担うのは確実です」と話すのは、〈マーテル〉の創業者でCEOのヘンリク・マルストランドさん。「新しい素材の活用や、斬新な開発と設計の手法を目の当たりにすると思います。例えば、古い漁網、人工芝、ビール瓶用の箱など、さまざまなプラスチックをリサイクルして新たなデザイン製品として生まれ変わらせる試みはすでにされています」。最近では、デンマークの家具メーカー〈ヴェーラース〉が海上でゴミとして浮かんでいたプラスチックを回収して使うなど、リサイクル素材を使った家具のシリーズを立ち上げている。
「サステナビリティが今よりさらに重要な役割を担うのは確実です」と話すのは、〈マーテル〉の創業者でCEOのヘンリク・マルストランドさん。「新しい素材の活用や、斬新な開発と設計の手法を目の当たりにすると思います。例えば、古い漁網、人工芝、ビール瓶用の箱など、さまざまなプラスチックをリサイクルして新たなデザイン製品として生まれ変わらせる試みはすでにされています」。最近では、デンマークの家具メーカー〈ヴェーラース〉が海上でゴミとして浮かんでいたプラスチックを回収して使うなど、リサイクル素材を使った家具のシリーズを立ち上げている。
2006年の創業当時、〈マーテル〉はサステナビリティを会社の事業の核に位置づけたという点で、マルストランドさんの言葉を借りると「無知ながらのパイオニア」だったという。だが今では、例えば象のふんで紙製ランプを製作するなど、意欲的な実験的試みをするまでに進化している(ふんは乾燥してから使用するので臭いはないとマルストランドさんは断言する)。
現時点では、サステナブルなデザインで実験的な試みを行っているのは中小企業が中心だが、今後は大手のデザイン会社もサステナビリティに向き合い、この取り組みに参入してくる、とマルストランドさんはみる。
現時点では、サステナブルなデザインで実験的な試みを行っているのは中小企業が中心だが、今後は大手のデザイン会社もサステナビリティに向き合い、この取り組みに参入してくる、とマルストランドさんはみる。
とはいえ、今後10年でデンマークデザインがよりサステナブルで実験的な方向へシフトするといっても、それによってデザインの美しさを妥協することはなさそうだ。「10年後のデンマークで市場にならぶ製品も、現在私たちが知っている一流の美しさ、つまり同じDNAを備えているだろうと思います。同時に、木材も引き続き重要な位置づけにあるはずです。デンマークデザインが変わらず美しいのは間違いありません。すべての礎となっているのがデザインの美しさなのですから」
これからの床は丈夫でサステナブル
家族経営で無垢の床材を生産してきた〈ディネーセン〉のオーナー、トーマス・ディネーセンさんは今後、木材フローリングはふたつの方向に向かうとみている。
「見た目は木材に見えるけれど本物の木でなくてもよい、と考える消費者は増えるでしょう。彼らが一番に重視するのはやや短期的な視点でみたコスト面で、素材へのこだわりはそれほどありません。床であっても家具であっても、希望に合わせてカスタマイズしたいという要求はそれほど強くないのです」
家族経営で無垢の床材を生産してきた〈ディネーセン〉のオーナー、トーマス・ディネーセンさんは今後、木材フローリングはふたつの方向に向かうとみている。
「見た目は木材に見えるけれど本物の木でなくてもよい、と考える消費者は増えるでしょう。彼らが一番に重視するのはやや短期的な視点でみたコスト面で、素材へのこだわりはそれほどありません。床であっても家具であっても、希望に合わせてカスタマイズしたいという要求はそれほど強くないのです」
一方で、美しくサステナビリティがあることに対して確固とした考えを持ち、自分たちのニーズに合わせて、個別にカスタマイズしたものをほしがる消費者も増えるだろうという。「今だけでなく、時が経っても美しく良質であり続けなくてはいけません。住まい手が品質志向であること、先を見据えていることに注目する必要があります。床は時とともに魅力ある味わいを増して、そこで暮らす人の人生を映し出すものであるべきです。全体として、美しさを兼ね備えたサステナビリティが重視されるでしょう。つまり、磨耗に耐えられる素材、時とともに美しい風格が出てくる素材です。本物であることが重要になり、人々は高い期待をもって床材を選ぶようになるだろうと思います」
品質重視の傾向にともない、本物の自然素材、サステナブルな素材への需要が高まるのは確実だとディネーセンさんは考える。
「真のサステナビリティは建築家とデザイナーの共同作業で作られます。その結果、時代を超えて受け継がれていくレベルの品質が生まれるのです」
「真のサステナビリティは建築家とデザイナーの共同作業で作られます。その結果、時代を超えて受け継がれていくレベルの品質が生まれるのです」
ひとりひとり個別のデザインを形に。タブーはない
「10年後、デンマークデザインはあらゆるスタイルの要素がエクレクティックにミックスされて、これが典型的なデンマークデザインだ、と定義するのは難しくなってくると思います。『不正解』がなくなり、さまざまな時代、スタイルの影響がみられるようになると思います」と話すのは、〈ノーマン・コペンハーゲン〉の創業者で共同オーナーのポール・マドセンさんだ。
「10年後、デンマークデザインはあらゆるスタイルの要素がエクレクティックにミックスされて、これが典型的なデンマークデザインだ、と定義するのは難しくなってくると思います。『不正解』がなくなり、さまざまな時代、スタイルの影響がみられるようになると思います」と話すのは、〈ノーマン・コペンハーゲン〉の創業者で共同オーナーのポール・マドセンさんだ。
また、オーダーメイドで個人向けのデザインを取り入れる動きはすでに広まっているが、今後はこれがさらに顕著になるだろうという。「カスタマイズする機会がもっと増えることを意味します。言ってみれば自分好みのコーヒーを家でいれるのと同じ感覚で、自分でデザインしたものを高精度のプリンターを使って家で自分でプリントアウトするようになるのです。ただ、デンマークデザインの黄金時代といえる1950年代から60年代を参考にする見かたは常にあるかもしれません。デンマークのデザインといって私たちが思い描くイメージといえばその時代ですから」
新たな命を吹き込まれる名作たち
デンマークの名作デザイン家具のヴィンテージを販売する〈クラシック・コペンハーゲン〉のセールスマネジャー、ステファン・ジェンセンさんは、ハンス・J・ウェグナーの《ウィッシュボーンチェア》やアルネ・ヤコブセンの《セブンチェア》といった名作デザインの人気は2028年になっても衰えないだろうとみる。「時代を作った著名デザイナーの名作デザインは過去のもの、ということは決してありません。名作デザインをもとにした新しい家具は今も絶えず発表されています。例えば〈カール・ハンセン&サン〉は、ウェグナーが手がけた “昔” の椅子の新作版をほぼ毎年出していますし、この先の10年もそうした動きは続くだろうと確信しています」
デンマークの名作デザイン家具のヴィンテージを販売する〈クラシック・コペンハーゲン〉のセールスマネジャー、ステファン・ジェンセンさんは、ハンス・J・ウェグナーの《ウィッシュボーンチェア》やアルネ・ヤコブセンの《セブンチェア》といった名作デザインの人気は2028年になっても衰えないだろうとみる。「時代を作った著名デザイナーの名作デザインは過去のもの、ということは決してありません。名作デザインをもとにした新しい家具は今も絶えず発表されています。例えば〈カール・ハンセン&サン〉は、ウェグナーが手がけた “昔” の椅子の新作版をほぼ毎年出していますし、この先の10年もそうした動きは続くだろうと確信しています」
世界的にも、名作中の名作とされる家具のブームは続くとステファンさんは予測する。だがデンマークでは、有名な名作家具はあまりによく知られていてありふれているため、デンマークの著名なデザイナーの作品の中でも、それほど知られていないものに需要があるという。〈クラシック・コペンハーゲン〉では、そうした昔の名作家具のよさを大切にするため、〈クラシック・スタジオ〉を立ち上げ、デンマークデザインの黄金期である1950年代から60年代の忘れ去られた家具を生産することに力を注いでいる。「さまざまな理由から当時はあまり注目されなかった美しい家具を扱っています。デザインが時代の先を行き過ぎていたり、当時の製造方法では量産できなかったりといった理由が推測される作品たちです」
1952年に発表された《ロイヤル・チェア》に腰掛けるデンマーク国王フレゼリク9世
そんな例の一つが、〈クラシック・スタジオ〉が《ロイヤル・チェア》の名で復刻している椅子。もともとポール・ヴォルターが1952年に発表したが、実際に作られたのは3脚にとどまった。1点はヴォルターが手元に残し、1点はデンマーク国王フレゼリク9世が購入、残りの1点は行方不明になっている。時代を超えたすばらしいデザインであり、ジェンセンさんは「忘れられた名作」と呼ぶ。この先の5年、10年、20年の間に、こうした復刻版は増えていくだろうとジェンセンさんは考えている。
そんな例の一つが、〈クラシック・スタジオ〉が《ロイヤル・チェア》の名で復刻している椅子。もともとポール・ヴォルターが1952年に発表したが、実際に作られたのは3脚にとどまった。1点はヴォルターが手元に残し、1点はデンマーク国王フレゼリク9世が購入、残りの1点は行方不明になっている。時代を超えたすばらしいデザインであり、ジェンセンさんは「忘れられた名作」と呼ぶ。この先の5年、10年、20年の間に、こうした復刻版は増えていくだろうとジェンセンさんは考えている。
残るのは、長く通用するすたれないデザイン
これからのデザインは長く続くものでなくてはならない、そのため限られた天然資源はできるだけ大切に使うべきで、デンマークのデザイナーもメーカーもサステナビリティを常に意識する必要がある。そう語るのは、デンマークの著名なデザイナー、フィン・ユール(1912-1989)の名作家具を手がける〈ハウス・オブ・フィン・ユール〉の共同創業者、ヘンリク・セーレンセンさんだ。
「デンマークデザインは、資源の枯渇を加速させる無意味な家具を世界に垂れ流すようなことにならない、よいものでなければいけません。近い将来、人は素材や、手に入れたものの由来、その家具が伝えるメッセージなどにますます関心を寄せるようになるだろうと信じています」とセーレンセンさんはいう。
これからのデザインは長く続くものでなくてはならない、そのため限られた天然資源はできるだけ大切に使うべきで、デンマークのデザイナーもメーカーもサステナビリティを常に意識する必要がある。そう語るのは、デンマークの著名なデザイナー、フィン・ユール(1912-1989)の名作家具を手がける〈ハウス・オブ・フィン・ユール〉の共同創業者、ヘンリク・セーレンセンさんだ。
「デンマークデザインは、資源の枯渇を加速させる無意味な家具を世界に垂れ流すようなことにならない、よいものでなければいけません。近い将来、人は素材や、手に入れたものの由来、その家具が伝えるメッセージなどにますます関心を寄せるようになるだろうと信じています」とセーレンセンさんはいう。
サステナブルな製作とは、長く愛されるデザインであり、製品としての役目を終えても素材を再利用できるものに限って新しい家具を製造してよいということを意味する、とセーレンセンさんは考える。さらに、家具産業はできれば、そしておそらく、ハイテク産業から学ぶことによって、今後10年の間にデザインプロセスや素材や製造方法の点でよりサステナブルになれるだろうと。
フィン・ユールの家具は、デンマークのデザイン産業全体がそうであるように、「特別なものへの関心の高まり」と「未来に対する理解」があって作られている、とセーレンセンさんはいう。「デンマークの家具には職人技を駆使した確かな品質があります。投資した分だけの価値があり、世代を超えて受け継いでいけるものなのです」
デンマーク・デザインの「来るべき6つのトレンド」とは?
世界のHouzzから:〈ジャパノルディック〉――デザインをめぐる日本とデンマークの熱い関係とは?
世界のHouzzから:北欧の新トレンド、巨匠の遺作デザイン商品化をめぐる賛否両論
フィン・ユールの家具は、デンマークのデザイン産業全体がそうであるように、「特別なものへの関心の高まり」と「未来に対する理解」があって作られている、とセーレンセンさんはいう。「デンマークの家具には職人技を駆使した確かな品質があります。投資した分だけの価値があり、世代を超えて受け継いでいけるものなのです」
デンマーク・デザインの「来るべき6つのトレンド」とは?
世界のHouzzから:〈ジャパノルディック〉――デザインをめぐる日本とデンマークの熱い関係とは?
世界のHouzzから:北欧の新トレンド、巨匠の遺作デザイン商品化をめぐる賛否両論
おすすめの記事
建築
日本的感性を象徴する「茶室」の伝統と革新性
茶道とともに成立し500年にわたり発展してきた茶室。茶聖・千利休が伝統建築を革新して生まれた茶室は、今も「利休の精神」により革新され続け、新しい表現を生み出し続けている建築形式です。
続きを読む
建築
日本の伝統的住宅の12の基本的な特徴とは?
日本で育ち、現在はロサンゼルスで暮らすアメリカ人ライターが、日本の伝統的住宅の基本的な特徴である12のポイントを解説します。あらためてなるほど、と思うこともあるかもしれません!
続きを読む
家を建てる
平面図、模型、3D間取り図……。家づくりのプレゼンで建築家が使用するツールの種類
文/安井俊夫
専門家がオーナーへのプレゼンの際に使うさまざまなツール。その種類や内容、使う時期について、現役建築家がご説明します。
続きを読む