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長野の豪雪と共存する、おおらかな切り妻屋根と斜め配置の住まい
震災を機に、東京から長野へ移住した一家。窓の外に飯綱山を一望する贅沢なロケーションを生かしながら、冬の豪雪ともうまく付き合っていくおおらかな住まいを叶えました。
Taeko Ishii
2018年11月23日
フリーランスのエディター・ライター。大学で住まいについて学んだのち、コピーライター、住宅雑誌編集者を経てフリーランスに。暮らしまわりに関すること、地方での暮らしについてが主なテーマです。
フリーランスのエディター・ライター。大学で住まいについて学んだのち、コピーライター、住宅雑誌編集者を経てフリーランスに。暮らしまわりに関すること、地方での暮らしについてが主なテーマです... もっと見る
りんごの名産地として知られる長野県北部の飯綱町。冬の積雪は1mを越え、町内にはスキー場もある豪雪地帯である。そんな町の一角、見晴らしのいい丘陵地に立つM邸は、カットしたレッドシダー材をパッチワークのように釘打ちした外壁と、おおらかな切り妻屋根が印象的な住まいだ。
どんなHouzz?
《飯綱町M邸》
住まい手:40代夫妻、子供2人
所在地:長野県上水内郡飯綱町
敷地面積: 480.00平方メートル
建築面積:150.74平方メートル
延床面積:149.05平方メートル
設計・監理:暮らしと建築社
竣工:2014年11月
長く東京に住みながら、アウトドアの趣味が高じて休日は長野と行き来する暮らしを送っていたMさん夫妻。長野へ本格的に移住することを決めたのは、2011年の東日本大震災がきっかけだった。
《飯綱町M邸》
住まい手:40代夫妻、子供2人
所在地:長野県上水内郡飯綱町
敷地面積: 480.00平方メートル
建築面積:150.74平方メートル
延床面積:149.05平方メートル
設計・監理:暮らしと建築社
竣工:2014年11月
長く東京に住みながら、アウトドアの趣味が高じて休日は長野と行き来する暮らしを送っていたMさん夫妻。長野へ本格的に移住することを決めたのは、2011年の東日本大震災がきっかけだった。
数年間の借家暮らしを経て、長男の小学校入学を機に新築を計画。紆余曲折の末に見つけた敷地は、飯綱町にある、かつてりんご畑だった480平方メートルの土地だ。なだらかな形状で、通う小学校にも近く、周囲に住宅が少ないのどかなエリア。何より北信五岳の一つ、飯綱山に向かって遮るもののない景色が広がるロケーションに惹かれ、購入を決めた。設計を依頼したのは、「自分たちのストライクゾーンど真ん中だった」という長野県の建築事務所「暮らしと建築社」の須永次郎さんと理葉(みちよ)さんだ。
建物をおおらかに包む6.8寸勾配の深い切妻屋根。その下の建物の形はいくぶんユニークだ。屋根に対して45度の角度をつけた四つの四角形がずれながら連なる、奥様いわく「切った4つの羊羹をずらして並べたような形」。
このユニークなフォルムは、多い時で2m超の積雪がある雪国の生活を丁寧に読み解くことで生まれた。「浅い庇の家は、大雪が降ると埋もれてしまいます。かといって庇が深すぎると、家の中に直射日光が入りづらい。庇を適度に深くしつつ、建物を屋根に対し角度をつけて雁行させることで、積雪時も建物の外周には除雪のいらない三角形の余白が生まれるのです」と須永さん。
傾けた室内の軸線と開口部は、飯綱山が見える方向へと向け、視線の抜けと開放感をもたらしている。敷地南側の交通量の多い道路と隣家から視線を逃すためにも、角度をつけたプランは有効だった。
傾けた室内の軸線と開口部は、飯綱山が見える方向へと向け、視線の抜けと開放感をもたらしている。敷地南側の交通量の多い道路と隣家から視線を逃すためにも、角度をつけたプランは有効だった。
雪とうまく付き合っていくため、屋根の構造と素材にも配慮。この地域では冬場の雪下ろし作業が必須だが、M邸の屋根は雪が自然と下に落ちるよう、ガルバリウム鋼板の波板葺きを採用し、雪止め金具や樋もあえて取り付けていない。
「実際に雪が積もったとき、屋根には留まらず、すべて下に落ちました。落ちた雪は軒先に届くほど積もりましたが、軒下の三角形の余白スペースは雪に埋まりません。落ちた雪の頂部だけ除雪すれば、室内への採光も通風も確保できます」と須永さんは語る。通路と駐車場は平地用の除雪機を使って、最低限の雪を周辺に飛ばす予定だ。
「実際に雪が積もったとき、屋根には留まらず、すべて下に落ちました。落ちた雪は軒先に届くほど積もりましたが、軒下の三角形の余白スペースは雪に埋まりません。落ちた雪の頂部だけ除雪すれば、室内への採光も通風も確保できます」と須永さんは語る。通路と駐車場は平地用の除雪機を使って、最低限の雪を周辺に飛ばす予定だ。
さらにこの三角形の余白は、玄関ポーチやデッキテラス、物干し場などさまざまな役割も果たす。中でも重宝しているのが、田舎暮らし特有の収納機能だ。
「草刈機などの農器具やストーブの薪、雪かきスコップ、石油タンク、スキー用品……。田舎暮らしには、外で雨ざらしにはしたくないけれど家の中にも入れたくない荷物が多いんです。かといって、家と切り離した倉庫をつくりたくはなかった。ひとつの建物に全部の機能をすっきり収めたい、と須永さんにお願いしたんです。この形を初めて提案されたときは、『ギザギザの家だね』と家族で驚きましたが、暮らしやすくて気に入っています」と奥様。
印象的な外壁は、なんとDIYで施工。「自ら手を動かすことで愛着を持てる」と須永さんが提案し、コスト削減も兼ねて友人らと約2カ月かけてレッドシダーのシングル板を釘打ちした。外壁というとハードルが高そうだが、このプランは大きな屋根の軒下に外壁面が収まるため漏水のリスクが少ないことから実現したそう。「出勤前に1時間貼るなど予想以上に時間がかかりましたが、満足です」とご夫妻。
「草刈機などの農器具やストーブの薪、雪かきスコップ、石油タンク、スキー用品……。田舎暮らしには、外で雨ざらしにはしたくないけれど家の中にも入れたくない荷物が多いんです。かといって、家と切り離した倉庫をつくりたくはなかった。ひとつの建物に全部の機能をすっきり収めたい、と須永さんにお願いしたんです。この形を初めて提案されたときは、『ギザギザの家だね』と家族で驚きましたが、暮らしやすくて気に入っています」と奥様。
印象的な外壁は、なんとDIYで施工。「自ら手を動かすことで愛着を持てる」と須永さんが提案し、コスト削減も兼ねて友人らと約2カ月かけてレッドシダーのシングル板を釘打ちした。外壁というとハードルが高そうだが、このプランは大きな屋根の軒下に外壁面が収まるため漏水のリスクが少ないことから実現したそう。「出勤前に1時間貼るなど予想以上に時間がかかりましたが、満足です」とご夫妻。
建物は南側に向いた東西に長い形。夏の強い日差しを避けるいっぽう、冬の光を積極的に取り込む「パッシブ制御」の考え方に基づいた設計だ。さらに「暖かい家」にこだわった夫の希望に応え、断熱性能は次世代省エネルギー基準に設定。小屋裏に換気扇を設置し、ダクトで床下へ暖気を送って室内で循環する仕組みを取り入れている。開口には、アルミと樹脂の複合サッシにlow-eガラスを使用した。こうした高い断熱性能により、真冬も暖房は薪ストーブ1台で十分だという。「引っ越し後初めてストーブを焚いたときは、暖かい!と感動しました。当初は床暖房導入も考えましたが、そこまでしなくても十分です」と奥様。
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プランで大切にしたのは個室が少ないこと。「家族がなんとなくつながれるようにしたかった」と奥様は振り返る。1階はストーブのあるリビングとキッチン、居間がゆるやかにつながる間取り。機能を限定しないゆったりとした空間は、家族の過ごし方に合わせてフレキシブルに使うことができる。2階の子ども部屋とゲストルームは、あえて壁で囲まず、ロフトのようなつくりに。1階から声をかけたり気配をうかがったりと、家族がどこにいても自然につながるプランだ。
右奥の小窓の向こうは、バッグアーティストである奥様のアトリエ。小窓越しに居間の家族の様子を伺いつつ、作業に集中できる環境を整えた。子どもたちははしごを上って2階の子ども部屋に上がる、遊び心あふれるプラン。
玄関を入ってすぐの場所には、造作ソファと本棚が並ぶコージーな「図書スペース」。コーナーを室内の端部に配することで、空間を広く使っている。
「M邸にはテレビがありません。通常、リビングのプランは『テレビ+ソファをどこに置くか』がポイントになりますが、この家にはそうした拘束がない。それもあって、各部屋のスパンは通常よりコンパクトな2.73mとしています」と須永さん。
「M邸にはテレビがありません。通常、リビングのプランは『テレビ+ソファをどこに置くか』がポイントになりますが、この家にはそうした拘束がない。それもあって、各部屋のスパンは通常よりコンパクトな2.73mとしています」と須永さん。
シンプルな室内を彩るのは、飯綱山やりんご畑の眺めを切り取る大小さまざまな開口だ。コーナーにL字型の窓をつくるなど、室内の端部に開口をつくることで視界が開け、面積以上の広がりを感じさせる設計に。クローゼットや押し入れなどの収納を各部屋に設けず、玄関脇の収納室に家族全員分を集約したプランも壁面の解放に一役買い、自由な開口デザインを可能にしている。
冬は白銀の世界が一面に広がり、夏はりんご畑の緑が彼方まで染め上げる。季節の変化をダイナミックに切り取る開口が、室内外をゆるやかにつなぐ住まい。決して楽ではない環境との共存と心地よさを両立させた、豊かな暮らしがここにある。
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