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プロダクトデザインの未来、世界に羽ばたく若手デザイナーの活動
国際家具見本市の若手デザイナーの出展コーナーで見られた、才能ある若きクリエイターの活動。今後の活躍が期待される金の卵たちに注目します。
Dobashi Yoko
2018年7月7日
国際的なインテリア見本市には、若手デザイナーたちがブースを連ねる一角がよく見られる。毎年4月に行われるミラノサローネでは「ミラノサローネ・サテリテ」がそれで、才能ある金の卵を求めて注目が集まる場所でもある。今年のミラノサローネでは、日本人テキスタイルデザイナー氷室友里氏の《SOFT BLOCK》が、サテリテ・アワード3位を受賞するという快挙も話題となった。ミラノの街中が会場となる「フオーリサローネ」では、従来のデザインの定義に収まらない、アートやテクノロジーと密接した実験的ながら美しいプロダクトを発表する若者の動きも活発だった。この記事では、なかでも目を惹いた作品とデザイナーを紹介しよう。
サローネ・サテリテ・アワード第3位受賞の快挙を成し遂げた氷室友里氏のプライベートワーク《SOFT BLOCK》。サローネ・サテリテ・アワードは、35歳以下を対象とした若手デザイナーの展示の中で、特に優秀なデザイナーに与えられる賞。優れた表現力と実用性が評価基準となる。コットンの糸を組み上げてできた柔らかいブロックユニットは、積んだり差し込んだりして組み立てることに加え、ねじったり曲げたりと、ソフトな素材ならではの組み合わせ方が楽しめる。
新作の大判のブランケットのコレクションを前に微笑む氷室氏。折り返すことで藤棚のようになるファブリックは、工夫次第で空間の間仕切りにも使えそうだ。大胆な柄展開でありながら、パターンや色の選定で上品な仕上がり。「テキスタイルは、気軽に大胆な色柄を楽しめるのもよいところ。空間に彩を添える存在になればと思いデザインしました」と話してくれた。
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オランダを拠点とする、エスター・ヤンスマ氏とサム・バングープ氏による〈ヴァントット〉の《カレント カレンツ》。触れても安全な導電性ワイヤーの好きな位置に取り付けられる、美しいLED照明だ。
電気部品を隠すのではなく、設計の一環として、インテリアにどう設置するか?という試みのもと開発された。
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ギリシャのアテネに本拠を置く〈CT Lights(シーティー ライツ)〉の創設者、クリス・ ブラシアス氏。工芸とLEDの実験的な組み合わせによる、アートのような照明をデザインしている。
手前の台には、ダイヤモンドのような大理石のベースに、真鍮で留められた指輪のような照明《ヘレン》。床やテーブルの上で、回転しながらバランスをとる姿はとても優雅だ。
奥の壁には、旅の探索の通過点にポイントを打ち、それを結ぶようなイメージから作られた《A.Z.OU》。好きな長さに調節できる革新的な配線システムの設計によって、光源を好きなように配置できる。
手前の台には、ダイヤモンドのような大理石のベースに、真鍮で留められた指輪のような照明《ヘレン》。床やテーブルの上で、回転しながらバランスをとる姿はとても優雅だ。
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昨年秋の「DESIGNART(デザイナート)2017」で実験的な展示〈Rust Harvest〉で話題を呼んだ狩野佑真氏。
今回は、自然の錆を扱いながらも、生産性・流通性・コスト面なども考慮し、形だけのデザインのみならず、生産体制までトータルで提案した《Rust Harvest Furniture Collection》として、リミテッドエディションの家具コレクションを発表。
アクリルとは別に、一部分だけその錆由来の金属(赤錆=鉄、青錆=銅)を、コーティングせずにあえて無垢のまま使うことで、錆の色ともとの素材の対比を表現。湿気などで自然と錆が発生し、何十年も経過したのちにアクリル部分の錆と同じ色になることを想定しているそうだ。経過する時間さえも作品の一部となったアートのような取り組みが印象に残った。
今回は、自然の錆を扱いながらも、生産性・流通性・コスト面なども考慮し、形だけのデザインのみならず、生産体制までトータルで提案した《Rust Harvest Furniture Collection》として、リミテッドエディションの家具コレクションを発表。
アクリルとは別に、一部分だけその錆由来の金属(赤錆=鉄、青錆=銅)を、コーティングせずにあえて無垢のまま使うことで、錆の色ともとの素材の対比を表現。湿気などで自然と錆が発生し、何十年も経過したのちにアクリル部分の錆と同じ色になることを想定しているそうだ。経過する時間さえも作品の一部となったアートのような取り組みが印象に残った。
フランス人デザイナー、ヴァレンティナ・ゼドゥエンデール氏による《スタンディング・ワークステーション》。狭い場所で梯子のように設置してディスプレイを楽しんだり、ちょっとした棚として使ったりできる。「日本の極小住宅でもフレキシブルに使えるんじゃないかしら!」という発想に、大きな可能性を感じた。
異なるカラーバージョンの鮮やかなブルー。差し色として空間を引き締めてくれそうだ。
奥の壁に見えるのは、ミラーとジュエリーを吊るす大理石の棚《ALBA(アルバ)》。手前のサボテン型のスツールは、アウトドア用プフ《Riccio(リッチオ》。色味やボリューム感、ユーモラスなフォルム。ありそうでなかったアイテムだ。
奥の壁に見えるのは、ミラーとジュエリーを吊るす大理石の棚《ALBA(アルバ)》。手前のサボテン型のスツールは、アウトドア用プフ《Riccio(リッチオ》。色味やボリューム感、ユーモラスなフォルム。ありそうでなかったアイテムだ。
オランダ・ロッテルダムを拠点に活動する、アメリカのデザイナー、レイチェル・グリフィン氏によって設立された〈Earnest Studio(アーネストスタジオ)〉。アメリカとヨーロッパの両方で、アートとデザインの境界を越えて大胆なデザインで成長している。
新作の《Kink Vase》は、グラフィックデザインのようなシンプルさで、彫刻のように美しい陶器の花瓶。
新作の《Kink Vase》は、グラフィックデザインのようなシンプルさで、彫刻のように美しい陶器の花瓶。
横関亮太氏のデザインした《セラミックアロマデューザー》は、企画と製造を担当する岐阜県の家電メーカーである〈ミュージーコーポレーション〉と、江戸時代から続く飛騨高山の〈渋草柳造窯〉とのコラボレーションにより誕生した。
飛騨高山の伝統工芸、渋草焼の質感やカラーリングが美しい。「陶器を意匠としてではなく、機能をデザインに取り入れたくて釉薬を開発した」と横関氏。一見家電には見えないが、コードレスでUSB充電もでき、微風が香りをふんわりと広げてくれる。
今後も「工芸品の技術や素材の機能を纏った美しい家電を、提案していきたい」と横関氏。
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今年から始まった「ヴェンチュラ・フューチャー」は、3つの建物で開催され、出展者は82組だった。
その中に、昨年東京・六本木の「AXIS」の地下で開催された「RE-IMPORTATION02」のミラノ凱旋展示「EX-PORTATION 2018」の姿も。スイスのECAL(ローザンヌ州立美術学校)卒業生有志による展示会は、開催される国によって名前が変わるというのもユニークだ。参加したのは写真左から、森田ヒロユキ氏、池内宏行氏、岩元航大氏、山本崇弘氏。
手前に写っているのは、森田ヒロユキ氏による《Yama》。素材はMDFボードと色画用紙、ヒンジには布を使っている。たたむことで、机の上にちょっとしたスペースが生まれる。「出しておいても素敵なものにしたかった。『なんでもかんでもしまえます』というものより、自分はそういうものの方が好きです」
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「ヴェンチュラ・フューチャー」に参加していたデザイナー130人から、3人にのみ贈られるFuturDome Prizeを受賞した、岩元航大氏の《Plastic Blowing Project》。ホームセンターなどでよく見かけるPVCパイプを使った実験的なプロジェクトだ。「どこのホームセンターでも安く手に入る素材に、新たな価値を見出したい」 と岩本氏。温めて柔らかくなったパイプに空気を吹き込んで作った花瓶やボウル。後ろに見えるオレンジ色のチューブは、実際に制作時に使ったもので、工具を自作しているところも面白い。
山本崇弘氏と金工作家、浦中廣太郎氏による素材実験を発展させ、プロダクトに応用した野点(のだて/野外で楽しむ茶の湯)用の棗。
3Dプリンターでしか作れない形状で樹脂型を作り、石膏で型取りし、真鍮を流し入れ、岩絵具や酸化による着色を施すという、気の遠くなるような作業を経た、美しいダブルレイヤーの模様。20種類ほどが展示されていた。
3Dプリンターでしか作れない形状で樹脂型を作り、石膏で型取りし、真鍮を流し入れ、岩絵具や酸化による着色を施すという、気の遠くなるような作業を経た、美しいダブルレイヤーの模様。20種類ほどが展示されていた。
素材の実験や、作り方の実験。美しい心象風景や自然の経年変化を作品にからめ、私的な喜びや発見をプロダクトに昇華する活動。最先端技術で見たことのない工芸品を作ること……。若手デザイナーの視点は、ごく個人的な気づきをプロダクトにしていく過程に、生の体温のようなものが感じられてワクワクする。回を重ねるごとに進化していくのを追うのも楽しい。
日本でもそういった、まだ曖昧なものを発表できる場が増えつつある。しかし、一般の人の目に触れて楽しんでもらうにはまだいくつかのハードルがあり、業界の中だけで盛り上がっているのが現状だ。
一方で、海外とのコネクションも強い、某一流メーカーの開発担当の方と話した際に印象に残ったこともある。「日本人デザイナーも、どんどんプレゼンに来て欲しい。海外の若手デザイナーは、紹介を取り付けては、売り込みに来ている。お待ちしております」とのこと。海外での発表に合わせて、日本でもデザイナー自ら積極的に動けるかどうかで、大きく未来は変わるのかもしれない。
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