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正方形の層を積み木遊びのように重ねた、建築家夫妻の「白い塔の家」
川岸を行き交う人のアイストップにもなる、白くそびえる塔のような家。雄大な川の景色をノスタルジックな喫茶店風リビングから眺め、思い思いにゆるやかな時間を楽しむ建築家夫妻の、家づくりへのこだわり。
takako kawaguchi
2018年2月5日
長年東京で暮らし、多くの建築設計に携わってきた〈下田設計〉の下田仁さん、恭子さん夫妻。「そろそろ自分たちで設計した家に住みたい」と考え、故郷である群馬県伊勢崎市で土地探しを始めた。経験上、周囲に公園や自然があり、その環境と関わりを持つような建て方をすると、住まい手が家に愛着を持ってくれることが多かったため、自分たちでもそうした敷地を探したのだそう。そして出会った土地は、西側に川が流れる静かな住宅地。おおらかに流れる川は子供の頃に釣りをしたり、川岸でクワガタ捕りをした、豊かで思い出深い川だった。
家をつくるにあたって夫妻が大切にしたのは、今まで影響を受けてきた人物や書物を(もちろん単純に好きなものも含めて)、自分たちなりの解釈で建築に取り入れること。そして先に述べたように周囲の自然を享受しながら、その「返礼」もできる家にしたいということだった。完成した住まいは夫妻のための「個人住宅」でありつつ、将来的にもしオーナーが変わったとしても、川や周囲環境との関わり方など普遍的な魅力を宿したサステイナブルな家となっている。
家をつくるにあたって夫妻が大切にしたのは、今まで影響を受けてきた人物や書物を(もちろん単純に好きなものも含めて)、自分たちなりの解釈で建築に取り入れること。そして先に述べたように周囲の自然を享受しながら、その「返礼」もできる家にしたいということだった。完成した住まいは夫妻のための「個人住宅」でありつつ、将来的にもしオーナーが変わったとしても、川や周囲環境との関わり方など普遍的な魅力を宿したサステイナブルな家となっている。
高いところから景色を眺めるのが好きで、「塔」に憧れがあり、そんなところに住んでみたいと考えていた下田仁さん。そこで、3間×3間の正方形の層を4つ重ねた「塔」を敷地中央に建てることを立案。さらに川の眺望を得るために、2層目を積み木ゲーム「ジェンガ」のように引き出し、さらに三角の積み木を乗せるように屋根を配した。
直線的な外観のアクセントとなっているのが、外付けの螺旋階段。「敬愛する画家、野又穣の絵画に出てくるようなシュールレアリスム的な佇まいも意識し、螺旋階段としました」。2階と3階のバルコニーを外部でつなぎ、建築全体として外と内、上下階を含む回遊動線をつくり出している。
どんなHouzz?
家族構成:下田仁さん、恭子さん 40代ご夫妻、ウサギ1匹
所在地:群馬県伊勢崎市
規模:地上3階建て
敷地面積:295.37平方メートル
延床面積: 86.10平方メートル
設計:下田設計
構造設計:tmsd萬田隆構造設計事務所
施工:小島建設
竣工:2017年8月
直線的な外観のアクセントとなっているのが、外付けの螺旋階段。「敬愛する画家、野又穣の絵画に出てくるようなシュールレアリスム的な佇まいも意識し、螺旋階段としました」。2階と3階のバルコニーを外部でつなぎ、建築全体として外と内、上下階を含む回遊動線をつくり出している。
どんなHouzz?
家族構成:下田仁さん、恭子さん 40代ご夫妻、ウサギ1匹
所在地:群馬県伊勢崎市
規模:地上3階建て
敷地面積:295.37平方メートル
延床面積: 86.10平方メートル
設計:下田設計
構造設計:tmsd萬田隆構造設計事務所
施工:小島建設
竣工:2017年8月
「塔」の形にすることで、建築面積を抑え、敷地に十分な余白も確保できた。高さは出ても日陰の影響(特に北側の隣接した建物に対して)は少なくなるなど、建築家ならではの近隣に対する配慮である。同時に、将来的な周辺環境の変化に備えるという意味も持つ。
玄関扉は外壁になじむ目立たないものをあえてセレクト。引き出された2階は玄関部分の庇の代わりにもなっている。外装はモルタル+吹付塗装でフラットな仕上げに。
駐車場は無駄をなくしたシンプルなスタイル。コンクリートの間は徐々に緑化し、街並みに潤いを与えられるようにしていく予定である。家の裏手には菜園も計画中。ポストは2階の家形と呼応する形を探し出した。
玄関扉は外壁になじむ目立たないものをあえてセレクト。引き出された2階は玄関部分の庇の代わりにもなっている。外装はモルタル+吹付塗装でフラットな仕上げに。
駐車場は無駄をなくしたシンプルなスタイル。コンクリートの間は徐々に緑化し、街並みに潤いを与えられるようにしていく予定である。家の裏手には菜園も計画中。ポストは2階の家形と呼応する形を探し出した。
雄大な景観をもたらす川と自然に関われる工夫が、あちこちに凝らされている下田さんの家。まず、2階のリビングに設けられたワイドな一枚窓だ。幅4mもの窓はこの家の主役といってもいい。家の中にいながら、外部の自然と融合しているような感覚になる圧倒的な存在感である。
窓をメインに、カウンターや椅子、ディスプレイ棚や本棚が落ち着いたテイストで展開されていく。空間イメージは「味わい深い喫茶店」。2人家族だが、カウンターにはベルベットの椅子を4脚、客席のように並べた。「いわゆるおしゃれなカフェというのではなく、独自の趣きがある喫茶店を目指しました。自作のメニュー表でも作っておこうかとも考えています」。
窓をメインに、カウンターや椅子、ディスプレイ棚や本棚が落ち着いたテイストで展開されていく。空間イメージは「味わい深い喫茶店」。2人家族だが、カウンターにはベルベットの椅子を4脚、客席のように並べた。「いわゆるおしゃれなカフェというのではなく、独自の趣きがある喫茶店を目指しました。自作のメニュー表でも作っておこうかとも考えています」。
「川から昇る朝日、新緑の季節、彼方に見える山並み……見飽きることがありません。特に夏の緑は本当にきれいで、市内の花火大会も見えます。冬は真っ白になった浅間山も望めるんですよ」と夫妻は語る。目の前の川中には島があり、そこにくる水鳥たちのバードウォッチングも楽しみのひとつとか。
川岸に沿うように伸びるサイクリングロードを通る人々と、視線が合うこともしばしば。適度な距離と微妙な高さの違いがあるため、プライバシーを覗かれている感覚はない。どちらからともなく会釈をし合う自然なコミュニケーションは、外部との心地よい心理的なつながりを生み出している。
窓の高さは140cm(天端)で、立った状態では景色の全貌は見えにくい。そのため自然と窓際に近づき、身を屈めたところにある椅子に座る。こんな一連の動作も、全てあらかじめ計算したものである。
窓はLow-E複層ガラス。サイズは幅400㎝×高さ70㎝のフィックスタイプ。
川岸に沿うように伸びるサイクリングロードを通る人々と、視線が合うこともしばしば。適度な距離と微妙な高さの違いがあるため、プライバシーを覗かれている感覚はない。どちらからともなく会釈をし合う自然なコミュニケーションは、外部との心地よい心理的なつながりを生み出している。
窓の高さは140cm(天端)で、立った状態では景色の全貌は見えにくい。そのため自然と窓際に近づき、身を屈めたところにある椅子に座る。こんな一連の動作も、全てあらかじめ計算したものである。
窓はLow-E複層ガラス。サイズは幅400㎝×高さ70㎝のフィックスタイプ。
インテリアは、敬愛する澁澤龍彦の鎌倉の自邸の雰囲気を参考に。ベルベットのカーテンや椅子、書物やオブジェなどにその要素が取り入れられている。
ソファは風合いの変化を楽しむため、あえて傷のつきやすい革張りのものを選択。東京・吉祥寺にある〈CRASH GATE〉で見つけたもの。隣にある電話台兼椅子はイギリスのヴィンテージ。電話は置かずに椅子として使用している。
窓上の棚は約幅500×奥行き250cm。モダン・ペッツシリーズを中心に気に入った人形や写真などをディスプレイ。脇の本棚は幅160×奥行き30×高さ230cm。カウンターの奥行きは50cm。いずれも厚さ3cmのタモ集成材でオリジナル制作したもの。
ソファは風合いの変化を楽しむため、あえて傷のつきやすい革張りのものを選択。東京・吉祥寺にある〈CRASH GATE〉で見つけたもの。隣にある電話台兼椅子はイギリスのヴィンテージ。電話は置かずに椅子として使用している。
窓上の棚は約幅500×奥行き250cm。モダン・ペッツシリーズを中心に気に入った人形や写真などをディスプレイ。脇の本棚は幅160×奥行き30×高さ230cm。カウンターの奥行きは50cm。いずれも厚さ3cmのタモ集成材でオリジナル制作したもの。
室内にも緑を、と考えていたときにたまたま見つけ、面白そうなので購入したという苔玉。こっくりと落ち着きのあるインテリアによくなじんでいる。2人で水やりをしながら楽しんで育てているそう。
澁澤邸でも使われていたベルベットのカーテンは、劇場のような雰囲気。幕が開く前の期待感、そんな空気に室内が包まれる。
造作家具のダークブラウンに合わせ、床も同系色のヴィンテージ加工に。オーク材で幅は19cm。
壁や天井は、床や家具のブラウンが引き立つ白。この家では「汚れが目立たないようにする必要はない、それもまた味となる」と考えたことも、白を選んだ理由である。LDの広さは約12畳。
壁や天井は、床や家具のブラウンが引き立つ白。この家では「汚れが目立たないようにする必要はない、それもまた味となる」と考えたことも、白を選んだ理由である。LDの広さは約12畳。
テレビを置いたオープン収納の向こうはキッチン。その先には、パントリーもついている。
写真右手の窓は南向きなので、キッチンやLDはいつも明るい光で満たされている。窓外のバルコニーからは、冒頭でご紹介したように、3階へと螺旋階段で昇ることもできる。左手のカーテンは、手洗いとトイレへの入口。
写真右手の窓は南向きなので、キッチンやLDはいつも明るい光で満たされている。窓外のバルコニーからは、冒頭でご紹介したように、3階へと螺旋階段で昇ることもできる。左手のカーテンは、手洗いとトイレへの入口。
キッチン脇にあるグラスボード。友人からもらった高価なグラス、量販店で買ったリーズナブルなもの、さまざまなペアグラスをここに。夕方になると気分に合ったグラスを選び、ワインを楽しむ夫妻にふさわしい、美しい魅せる収納である。
写真は3階の寝室。壁はブルーで塗装、床はピンクのじゅうたんに。天井は黄色の壁紙を貼っている。黄色と青の組み合わせは、下田さんが尊敬するスペインの建築家、ジョセップ・マリア・ジュジョール(ガウディの愛弟子)が好んだ色なのだそう。
ベッドのヘッド部分に取り付けたのは〈toolbox〉のライト。L字のパイプは180度回転させられるので、寝ている家族がいるときは自分のほうに寄せて読書する、という使い方ができて便利。
ベッドのヘッド部分に取り付けたのは〈toolbox〉のライト。L字のパイプは180度回転させられるので、寝ている家族がいるときは自分のほうに寄せて読書する、という使い方ができて便利。
次は1階を見てみよう。こちらは主にゲストルームとして使う和室。広さは3畳ほど。下の窓が坪庭につながっており、庭を眺めながらここでお酒を飲むのも一興だ。
坪庭に開いた形のため、明るく開放感のある洗面室。坪庭は洗濯物を干したり、グリーンを楽しむ空間としても活用している。
洗面スペースは、和室とのつながりを考慮し、ナチュラルなテイストに。オリジナルのシンプルなデザインで、コスト削減にも貢献している。ブルーの壁面タイルは、効果的な差し色の方法としてぜひ参考にしたい。床はコルクタイル。
洗面スペースは、和室とのつながりを考慮し、ナチュラルなテイストに。オリジナルのシンプルなデザインで、コスト削減にも貢献している。ブルーの壁面タイルは、効果的な差し色の方法としてぜひ参考にしたい。床はコルクタイル。
外に干せない日は、収納扉の中に収めてあるランドリーループを引き出して吊るせるシステム。使ったバスタオルを掛けることもあり、重宝している。
バスルームはハイグレードなホテルのように、清潔感あふれる白で統一。ハーフユニットバスでコストを抑えながら、壁はタイル貼りにするなど、こだわりも叶えた仕上げに。入り口扉は透明ガラスにし、洗面所を通して坪庭が見えるようになっている。
1階全体のインテリアはシンプルでナチュラル。それに合わせながらも、トイレは一面だけ遊び心をプラスし、フランスのアーティストの壁紙を採用した。
ちなみに2階トイレはこちら。ここでは広大な花畑をイメージできる壁紙をセレクト。透明アクリルの手すりは存在感がなくて正解でした、と下田さん。
この家の室内各所や外観でポイントとなっているのが、三角屋根の家形フォルム。「室内は、建具が不要で通り抜けるだけの部分を三角にしています。家の中に家があるイメージです。外部デザインとインテリアはかなり異なるので、共通するデザインとして家形を取り入れました」。
玄関の土間部分の左手にはシューズクローゼットが、玄関を上がった右手には納戸があり、収納量も申し分ない。
玄関の土間部分の左手にはシューズクローゼットが、玄関を上がった右手には納戸があり、収納量も申し分ない。
トイレの扉にも家形が。使っているのは赤い透明アクリル板。この他、先にご紹介した2階リビングから手洗いへの入り口や、3階寝室でもこの形が見られる。
3階のバルコニーでは、水鳥たちを眺めることが多いそう。2階の窓とは景色の見え方がまた違うというから面白い。のんびりと日向ぼっこをしたり、ここでお酒を飲んだりするのは最高にリラックスするひととき。
さらに1階上がった屋上にもバルコニーがある。腰掛けて景色を眺めながら季節ごとの風を感じたり、読書をしたり。「将来的にはハンモックをつけたいですね」。
屋上は4方向それぞれに、異なる形の開口部を設け、景色を印象的に切り取る工夫が施されている。
屋上は4方向それぞれに、異なる形の開口部を設け、景色を印象的に切り取る工夫が施されている。
西側に丸く開けた窓のイメージは、船舶窓。のぞき見ると、彼方に浅間山が見えることも。
「休日の夕方はこの窓辺に腰掛け、夕日に輝く水面を眺めつつ、ノートパソコンに向かってゆっくりと仕事をします。そんなときはウサギをケージから出して遊ばせることも(貴重な本をかじられてしまうこともありますが)。革張りソファの上では妻がワインを片手に、本を読みながら半分眠っていて……。こんなゆっくり、ゆったりとした時間が、まさに私たちが理想としていた『個人住宅』での過ごし方なのです」。
奥様の恭子さんのお母様が完成後初めて訪れた際のことを、下田さんはこう振り返る。「実は、『こんな小さな家にうちの娘を住まわせるつもり?』と怒られるかと思いましたが(笑)、『さすが建築家ね、使いやすいし、川の景色が見られるなんて素晴らしいわね』と言ってもらいほっとしました」。友人たちも皆、既存の “家” のイメージとは異なる下田邸に驚くのだそう。
2階建ての家が軒を並べるこの地区にそびえ立つ「白い塔」。地域のランドマークとまではいかなくても、豊かな自然と調和するアイストップとして、この地域の特徴になれたら、と夫妻は願っている。
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