高齢の母娘が愛猫と仲良く暮らす、シェアハウスのような家
シンプルな平屋建てに、適度なプライバシーやメンテナンスのしやすさなどの工夫が満載。シニア世代の母娘二人暮らしの快適性を追求した住まいです。
千葉県東金市の山深い一本道を、両脇を流れる小川に目をやりながら進むと、広大な畑地の中央に突如、真っ白い建物が現れる。大きなパラソルを広げたような屋根が印象的な、高床式の平屋だ。
笑顔で出迎えてくれたのは、この地で生まれ育った60歳代の女性オーナーと、90歳になるお母様。活動的な母娘が、愛猫の小梅ちゃんとともに、それぞれが自立しつつも仲良く暮らす家。そこに、設計を担当した〈Smart Running 一級建築士事務所〉の小泉一斉さん・千葉万由子さん夫妻とともに訪れ、建て替えの経緯や、住み心地などを伺った。
笑顔で出迎えてくれたのは、この地で生まれ育った60歳代の女性オーナーと、90歳になるお母様。活動的な母娘が、愛猫の小梅ちゃんとともに、それぞれが自立しつつも仲良く暮らす家。そこに、設計を担当した〈Smart Running 一級建築士事務所〉の小泉一斉さん・千葉万由子さん夫妻とともに訪れ、建て替えの経緯や、住み心地などを伺った。
オーナーの要望は、季節や時間による採光の変化を楽しめるよう庇(ひさし)を長くし、できるだけシンプルな建物で、メンテナンスがしやすく、屋内から外を見渡せる家、ということだった。
そのため、ピラミッド型の方形(ほうぎょう)屋根の軒(のき)を深くして、耐久性に優れたガルバリウム鋼板を縦ハゼ葺きにした。 オーナーのメンテナンスの手間を少なくするため、落葉などが詰まりやすく壊れやすい雨どいは設置していない。 「すっきりしたデザインはもちろんのこと、雨どいがないのがありがたいです」と喜ぶオーナー。
そのため、ピラミッド型の方形(ほうぎょう)屋根の軒(のき)を深くして、耐久性に優れたガルバリウム鋼板を縦ハゼ葺きにした。 オーナーのメンテナンスの手間を少なくするため、落葉などが詰まりやすく壊れやすい雨どいは設置していない。 「すっきりしたデザインはもちろんのこと、雨どいがないのがありがたいです」と喜ぶオーナー。
向かって右側の階段を上がったところが、土間玄関の入口。左側の窓の奥が、お母様の寝室だ。建物のガラスの開口にはカーテンやブラインドはあえてつけず、丸見え状態を楽しんでいる。「近所の人たちはみんな知り合いなので、中にいるのがわかると、気軽に立ち寄ってくれます」とお母様。
ちなみに階段は、上り下りが苦痛になったときのために、手すりを外して、階段の逆側に昇降機(リフト)を設置できるようにもしてある。
ちなみに階段は、上り下りが苦痛になったときのために、手すりを外して、階段の逆側に昇降機(リフト)を設置できるようにもしてある。
小梅ちゃんは、お母様のベッドの上が大好き。よく隣人からも「さっきは、猫とおばあちゃんが一緒に寝てたね〜」などと声をかけられることもあるそう。
白い壁の戸袋内に収納されているのは、明るい青色に塗装した木製引き戸。
白い壁の戸袋内に収納されているのは、明るい青色に塗装した木製引き戸。
通称「小梅テラス」に顔を出し、「あら、目が合ったわね」と、視線を凝らす小梅ちゃん。この専用口は、お母様の寝室奥のウォークインクローゼットの壁に設置されているので、いつもここから自由に出入りしている。千葉さんのアイデアで、冬場、寒気が室内に流れ込まないように、内部には通路専用の棚も設けられている。
また、テラスの回転式ラダーパーティションは、夜間は閉められるようにして、小梅ちゃんが遠くに行かずとも、トイレができるようにも工夫されている。
また、テラスの回転式ラダーパーティションは、夜間は閉められるようにして、小梅ちゃんが遠くに行かずとも、トイレができるようにも工夫されている。
「小梅テラス」を挟んで手前(画像右側)がお母様の部屋で、奥がオーナーの寝室。テラスは、オーナーいわく、「小梅ちゃんだけのスペースではなく、母と私のプライバシーを保つためにも重要な役割を果たしてくれています」。
引き戸を開けた状態のオーナーの寝室。リビングとの境の壁際には、自作の陶器の花瓶を置き、小梅ちゃんが、壁で爪研ぎをできないようにしている。
建物の延床面積が30坪未満とは思えないほど、広々と感じるのは、建具にも細かい心配りがされているからだ。部屋の仕切りの框戸の木製枠は、視線の妨げにならないように、 見付60mmと通常より細くしてある。寝室のガラス窓の障子の下部も、床の上に出ていないので、より外の景色が多く取り込めている。
建物の延床面積が30坪未満とは思えないほど、広々と感じるのは、建具にも細かい心配りがされているからだ。部屋の仕切りの框戸の木製枠は、視線の妨げにならないように、 見付60mmと通常より細くしてある。寝室のガラス窓の障子の下部も、床の上に出ていないので、より外の景色が多く取り込めている。
「入居して2年が建ちますが、建具にまったく狂いがなく驚いています」というオーナー(写真左)。「建具製作は、設計条件が厳しかったため、なかなか引き受けてくれるところがなく、必死で業者を探しました」と当時を振り返る千葉万由子さん(写真右)。地元で腕がよいことで評判の〈株式会社建石〉が製作してくれた。
家の中心に位置するLDK。各室を使用するには必ずリビングを通るため、リビングは広い廊下のようでもある。リビングと周囲の空間との境をガラス戸で仕切ったことが、家全体を広く見せる効果にもつながっている。
また、実際よりも大空間に見えるのは、棟柱が存在していないからでもある。方形屋根は、隅木のみで支えられている。当初、現場監督は「棟柱をなくすのは無理」だと抵抗したそう。上棟(屋根の頂点の部材である棟木を取りつけする)の際も、心配して仮柱まで準備していたほどだが、取り越し苦労に終わった。
また、実際よりも大空間に見えるのは、棟柱が存在していないからでもある。方形屋根は、隅木のみで支えられている。当初、現場監督は「棟柱をなくすのは無理」だと抵抗したそう。上棟(屋根の頂点の部材である棟木を取りつけする)の際も、心配して仮柱まで準備していたほどだが、取り越し苦労に終わった。
中央のLDKの周りを、木製ガラス框戸を挟んで、土間玄関、寝室、小梅テラス、水廻り、テラスが配置されている。
LDKの四方を囲む建具は、すべて床から1.8mの高さで揃えられているため、「ガラス掃除も楽です」というオーナー。また、開口上部に垂れ壁をつくらず、周囲の部屋からひと続きに天井が迫り上がるため、視線および外光の通りもよい。「外光が勾配天井をなぞるように間接光となって、建物中央まで照らす効果も狙いました」と語る小泉さん。
床は、異なる長さのナラ無垢材を組み合わせて張る「乱尺張り」。建具の木枠に採用した針葉樹も、経年変化で少しずつフローリングの色に近づいていくという。
床は、異なる長さのナラ無垢材を組み合わせて張る「乱尺張り」。建具の木枠に採用した針葉樹も、経年変化で少しずつフローリングの色に近づいていくという。
キッチンカウンターの下(横格子内)にはエアコンが設置されている。「この前がいちばん暖かいので、いつも小梅ちゃんと席の取り合いになります」と笑うお母様(写真右)。
キッチンカウンターや収納は、ラワンの突き板をウレタンクリア塗装で仕上げた。
キッチンカウンターや収納は、ラワンの突き板をウレタンクリア塗装で仕上げた。
パントリーには、オーナー自作の陶芸作品や、中学生の頃から嗜んだ茶道の道具類などが並んでいる。「きれいに住む秘訣は、物を増やさないこと」というオーナー。逆側の棚も、〈無印良品〉の布製ボックスで、きちんと整理整頓されていた。
ガーデニングが趣味のオーナーのために、前庭だけでなく、建物裏側の段差のある地面を土止めして、花壇も設えた。パンジーに混じって、ここにもオーナーお手製の可愛らしい陶器人形が!
建物の床を地面から約1m上げたのは、裏山からの水がこの敷地に流れ込んでいるため。地盤固めに加え、床下の風通りもよくしたので「ジメジメしていた床から解放され、助かっています」とオーナー。
軒下には防草シートを敷いた上に、砕石を敷き詰めたので、「玄関の呼び鈴が鳴る前に、石を踏みしめる音で、来客がわかります」と喜ぶお母様。
軒下には防草シートを敷いた上に、砕石を敷き詰めたので、「玄関の呼び鈴が鳴る前に、石を踏みしめる音で、来客がわかります」と喜ぶお母様。
90歳になっても、矍鑠(かくしゃく)としているお母様と、退職後もバスを乗り継ぎ市内に出かけ、陶芸や墨絵、ろう画などの制作活動を続けるオーナー。まだまだ元気溌剌なお二人だが、女性だけの所帯のため、建物の随所に細かい気配りが施されている。それは「力仕事や修繕を極力回避させた家」であり、「各自が一人になれる空間を持ちながらも、ガラス越しにお互いの気配を感じられる家」である。そして、そこに小梅ちゃんが加わることで、全員が仲良く暮らせる妙。
そんな「新しい家族の集合の形」を、「小規模シェアハウス」のような建築プログラムで提示したのが小泉・千葉夫妻だ。幾何学的に厳密な設計を試みた小泉さんと、施主の要望以上の気配りをして、業者との折衝にも奔走した千葉さん。「お二人にお任せして本当によかった」というオーナーとお母様の言葉と笑顔からは、快適な暮らしを得た喜びと満足感がほとばしっていた。
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所在地:千葉県東金市
概要:(建て替え)新築・木造平屋
住まい手:60代女性、90代母親、4歳の愛猫小梅ちゃん
敷地面積:333.76平方メートル
延床面積:86.95平方メートル
竣工:2015年8月
構造: 桑子建築設計事務所(桑子亮)
設計:Smart Running 一級建築士事務所(小泉一斉 千葉万由子)
構造設計:桑子建築設計事務所
(桑子亮)
施工:仲佐建築工房(仲佐誠)
撮影:Smart Running 一級建築士事務所(小泉一斉)
定年退職を目前にして、築40年以上の自宅を建て替えることにしたオーナー。希望したのは、敷地奥にある築200年以上の母屋に弟と暮らしていた母と、母の愛猫の小梅ちゃんを呼び寄せ、女性だけで気楽に暮らすこと。お互いのプライバシーは確保しながら、寄り添いながら過ごせる空間だ。
「せっかくの新築なので、ハウスメーカーで建てる注文住宅ではなく、地元の建築家、それも女性目線が欲しかったので、どうしても建築家夫妻にお願いしたかった」というオーナー。インターネットで検索し、職場近くにある〈Smart Running〉を見つけ、「ご夫妻が手がけた自邸を見て気に入り、すぐに依頼しました」。