内と外の世界を緩やかにつなぐ、ニッポンの縁側
文字通り家の縁(ふち)にあって、内部でありながら外部のような。誰のものでもないのに個室のような居心地が良い、そんな縁側の魅力と不思議。
Naoko Endo
2015年8月28日
出版社、不動産ファンド、代理店勤務を経て、フリーランス・ライター。
個人ブログ「a+e」http://a-plus-e.blogspot.jp/
出版社、不動産ファンド、代理店勤務を経て、フリーランス・ライター。
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縁側(えんがわ)と聞いた時、おそらく多くの日本人は、次のような四季折々の情景を、ごく自然と思い浮かべるのではないだろうか。
縁側に腰を下ろす。すると、目の前には、小さくとも手入れの行き届いた庭か、田舎の山並みが広がっている。鶯のさえずりに耳をすませ、やがて夏になれば、よく冷えたスイカに噛りつく(黒い種は庭に向かって吹き飛ばすのが正しい)。寒さ厳しい季節には、ガラス戸を閉め切った縁側の日だまりで、猫と一緒に背を丸め、まどろむ。
勝手知ったる隣近所の住民が、玄関先ではなくいきなり縁側の前までやって来て訪問を告げたとしても、マナー違反にはなるまい。やぁ、ようこそ、と迎えられ、そのまま縁側での茶飲み話に花を咲かせる。
だが、そんな情景も、やりとりも、住宅の敷地面積が広くは望めない都市部では憧憬となりつつある。
設計条件や、時にはその土地が受け継いできた歴史を紐解く解として、実にさまざまなかたちで現代の住まいに取り込まれた縁側空間を紹介する。
縁側に腰を下ろす。すると、目の前には、小さくとも手入れの行き届いた庭か、田舎の山並みが広がっている。鶯のさえずりに耳をすませ、やがて夏になれば、よく冷えたスイカに噛りつく(黒い種は庭に向かって吹き飛ばすのが正しい)。寒さ厳しい季節には、ガラス戸を閉め切った縁側の日だまりで、猫と一緒に背を丸め、まどろむ。
勝手知ったる隣近所の住民が、玄関先ではなくいきなり縁側の前までやって来て訪問を告げたとしても、マナー違反にはなるまい。やぁ、ようこそ、と迎えられ、そのまま縁側での茶飲み話に花を咲かせる。
だが、そんな情景も、やりとりも、住宅の敷地面積が広くは望めない都市部では憧憬となりつつある。
設計条件や、時にはその土地が受け継いできた歴史を紐解く解として、実にさまざまなかたちで現代の住まいに取り込まれた縁側空間を紹介する。
《I邸》
設計:宮崎一一計画工房
雁行した家屋の外観も美しく、これぞ伝統的な「ザ・縁側」という画(え)である。伝統構法に則って、35年前に建てられた日本家屋だが、風情ある佇まいは今も変わらないという。
縁側の材は松、建具は檜(ひのき)。鞍馬産の沓脱石から庭に下り、飛び石を右に渡った先には茶室が、反対に左手に進むと、京都の造園家久保篤三の作による本格的な日本庭園が広がっている。
縁側の軒下に一列に並んだすだれは、夏の強い日差しを柔らかく遮り、風を通す。見ただけで涼感を覚える、まことニッポンの夏らしいしつらえだ。
設計:宮崎一一計画工房
雁行した家屋の外観も美しく、これぞ伝統的な「ザ・縁側」という画(え)である。伝統構法に則って、35年前に建てられた日本家屋だが、風情ある佇まいは今も変わらないという。
縁側の材は松、建具は檜(ひのき)。鞍馬産の沓脱石から庭に下り、飛び石を右に渡った先には茶室が、反対に左手に進むと、京都の造園家久保篤三の作による本格的な日本庭園が広がっている。
縁側の軒下に一列に並んだすだれは、夏の強い日差しを柔らかく遮り、風を通す。見ただけで涼感を覚える、まことニッポンの夏らしいしつらえだ。
《築100年住宅のリノベーション》
設計:吉岡建設株式会社
伝統構法で100年ほど前に建てられ、代々にわたって住み継がれてきた平屋の住まい。老朽化が目立ち、改修を前提に調べたところ、屋根裏の小屋組など躯体部分は補強を施せば問題なかったが、それ以外は全て作り直す必要があった。家主はできる限り元の空間を再現することを望み、それらを日本で育った国産の無垢材で改修することにこだわった。孫の代、さらに先の代まで、この家ごと大工の技を残し、受け継いでいくために。
その願いを尊重して、姿かたちはほぼそのままに一新された縁側である。床は檜、柱は栂(ツガ)、天井面の仕上げも含め、全て国産材が用いられている。
設計:吉岡建設株式会社
伝統構法で100年ほど前に建てられ、代々にわたって住み継がれてきた平屋の住まい。老朽化が目立ち、改修を前提に調べたところ、屋根裏の小屋組など躯体部分は補強を施せば問題なかったが、それ以外は全て作り直す必要があった。家主はできる限り元の空間を再現することを望み、それらを日本で育った国産の無垢材で改修することにこだわった。孫の代、さらに先の代まで、この家ごと大工の技を残し、受け継いでいくために。
その願いを尊重して、姿かたちはほぼそのままに一新された縁側である。床は檜、柱は栂(ツガ)、天井面の仕上げも含め、全て国産材が用いられている。
《農家の母家のリノベーション》
設計:ユミラ建築設計室
築80年前後の母家をゲストハウスとして改修した事例。いったんスケルトンの状態に戻し、耐震および断熱性能を現法規に適合させている。
L字の縁側は元からあった空間だが、その外側の濡れ縁は改修時に付加したもの。庭と室内の間にワンクッション入ったが、双方の空間はグンと近付き、親密さを増している。また、上の写真ではわかりにくいが、和室の中央には既製品の掘りごたつを2つ並べて格納している。スイッチひとつで昇降し、畳敷きの面をひっくり返すと、表面が木の座卓に早替わりする。親戚や大勢が集まる宴席の場面などで重宝している。
昔の雰囲気を残しつつ、もてなしの場としての体裁を整えたリノベーションである。
設計:ユミラ建築設計室
築80年前後の母家をゲストハウスとして改修した事例。いったんスケルトンの状態に戻し、耐震および断熱性能を現法規に適合させている。
L字の縁側は元からあった空間だが、その外側の濡れ縁は改修時に付加したもの。庭と室内の間にワンクッション入ったが、双方の空間はグンと近付き、親密さを増している。また、上の写真ではわかりにくいが、和室の中央には既製品の掘りごたつを2つ並べて格納している。スイッチひとつで昇降し、畳敷きの面をひっくり返すと、表面が木の座卓に早替わりする。親戚や大勢が集まる宴席の場面などで重宝している。
昔の雰囲気を残しつつ、もてなしの場としての体裁を整えたリノベーションである。
《Studio M》
設計:廣部剛司建築研究所
この家の"縁側"は、大きく分けて2つある。ひとつは、リビングをぐるりと囲ったコンクリートベンチ。サッシを開け放てば外からも腰掛けられる。もうひとつは、ベンチとほぼ同じ高さで、ダイニングキッチンとの間に渡された廊下のような部分だ(上の写真の右端に僅かに写っている。以下、設計コンセプトに倣って"エンガワ"と呼称する)。
実のところ、縁側にこれという定義も法規の縛りもない。畳敷きの和室に付随せずとも、床の材も木製でなくともよいのだ。腰掛けたり、テーブルにしたり、内と外を曖昧に接続してくれるのが縁側/エンガワではないかと設計者である建築家の廣部剛司氏は考えた。
音楽スタジオと縁側をつくること。そして、夏は自然の風だけで、冬でも暖かく過ごせる家という、複数の要望を全て解いていった結果、おのずと導き出されていった空間だという。玄関から真っすぐ、リビングとダイニングの真ん中に伸びる"エンガワ"は、床に無垢のパイン材を張り、その下には土壌蓄熱式暖房が埋設されている。
設計:廣部剛司建築研究所
この家の"縁側"は、大きく分けて2つある。ひとつは、リビングをぐるりと囲ったコンクリートベンチ。サッシを開け放てば外からも腰掛けられる。もうひとつは、ベンチとほぼ同じ高さで、ダイニングキッチンとの間に渡された廊下のような部分だ(上の写真の右端に僅かに写っている。以下、設計コンセプトに倣って"エンガワ"と呼称する)。
実のところ、縁側にこれという定義も法規の縛りもない。畳敷きの和室に付随せずとも、床の材も木製でなくともよいのだ。腰掛けたり、テーブルにしたり、内と外を曖昧に接続してくれるのが縁側/エンガワではないかと設計者である建築家の廣部剛司氏は考えた。
音楽スタジオと縁側をつくること。そして、夏は自然の風だけで、冬でも暖かく過ごせる家という、複数の要望を全て解いていった結果、おのずと導き出されていった空間だという。玄関から真っすぐ、リビングとダイニングの真ん中に伸びる"エンガワ"は、床に無垢のパイン材を張り、その下には土壌蓄熱式暖房が埋設されている。
《H-House》
設計:仲摩邦彦建築設計事務所
都内の住宅密集地に建てられた住宅の1階内観である。三方を隣家に囲まれ、残る西側もいずれは空き地ではなくなることから、採光とプライベート空間を確保するために、3つの箱を積み上げたような外観をしている(レッドシダーが特徴的な内外観については、外装材の特集記事で紹介している)。
この写真で方位を説明すると、右側が南で、奥が東にあたる。外縁部を木塀で守られたL字の縁側がまわっている。画面手前側、西に向かってデッキを戻ると、コーナーで北に折れ、その一角だけ外部に対して開かれている。ここが、住まい手はもちろん、近所の人にも開放された縁側になっているのだ。
家主に誘われるまま腰を下ろし、一時を過ごす。そんな昔ながらの近所づきあいを大切にしている、家主の人柄が顕れたような空間だ(画像をクリックして、リンク先で見られる写真とテキストで確認して欲しい。その他の紹介作品でも同様に)。
設計:仲摩邦彦建築設計事務所
都内の住宅密集地に建てられた住宅の1階内観である。三方を隣家に囲まれ、残る西側もいずれは空き地ではなくなることから、採光とプライベート空間を確保するために、3つの箱を積み上げたような外観をしている(レッドシダーが特徴的な内外観については、外装材の特集記事で紹介している)。
この写真で方位を説明すると、右側が南で、奥が東にあたる。外縁部を木塀で守られたL字の縁側がまわっている。画面手前側、西に向かってデッキを戻ると、コーナーで北に折れ、その一角だけ外部に対して開かれている。ここが、住まい手はもちろん、近所の人にも開放された縁側になっているのだ。
家主に誘われるまま腰を下ろし、一時を過ごす。そんな昔ながらの近所づきあいを大切にしている、家主の人柄が顕れたような空間だ(画像をクリックして、リンク先で見られる写真とテキストで確認して欲しい。その他の紹介作品でも同様に)。
《海東の家》
設計:松原建築計画
平屋のコートハウスの中庭に面した、2人の子のための部屋と縁側空間である。リビングダイニングと寝室を結ぶ動線でもある。
床に張っているのは、耐久性に優れ、水にも強いチーク材。子どもがテーブルがわりにしたり、想像力豊かに遊べるような縁側を想定した。レベルを一段下げたところが子供部屋で、畳ではなくサイザル麻が敷かれている。
子供の成長に従い、空間を仕切ることも想定しているが、自由にできるように敢えて建具はしつらえなかった。軒下および縁側の上の天井をギリギリまで低くし、天井も梁をみせて仕上げることで、部屋から外を眺めた際の画角を大きく広くとっている。
設計:松原建築計画
平屋のコートハウスの中庭に面した、2人の子のための部屋と縁側空間である。リビングダイニングと寝室を結ぶ動線でもある。
床に張っているのは、耐久性に優れ、水にも強いチーク材。子どもがテーブルがわりにしたり、想像力豊かに遊べるような縁側を想定した。レベルを一段下げたところが子供部屋で、畳ではなくサイザル麻が敷かれている。
子供の成長に従い、空間を仕切ることも想定しているが、自由にできるように敢えて建具はしつらえなかった。軒下および縁側の上の天井をギリギリまで低くし、天井も梁をみせて仕上げることで、部屋から外を眺めた際の画角を大きく広くとっている。
《鋸南の家》
設計:石井秀樹建築設計事務所
都会の喧噪から離れた、緑豊かな地に建てられたセカンドハウスである。
山々を背にした美しい田園風景が、縁側越しの大開口によって切り取られた時に美しい「画」となるよう、縁側から続いているファーストフロアの床レベルはやや高く設定されている。
床レベルは段々と上がり、外部の自然を徐々に室内に引き込みながら、家の最深部まで連続する。最も高い場所にしつらえられた寝室は、プライバシーをしっかりと守りつつも、ふと見下ろせば、縁側を含む"額縁"が、庭先に咲く小さな草花や、小鳥たちの訪れという、もう1つの画(え)を見せてくれる。
設計:石井秀樹建築設計事務所
都会の喧噪から離れた、緑豊かな地に建てられたセカンドハウスである。
山々を背にした美しい田園風景が、縁側越しの大開口によって切り取られた時に美しい「画」となるよう、縁側から続いているファーストフロアの床レベルはやや高く設定されている。
床レベルは段々と上がり、外部の自然を徐々に室内に引き込みながら、家の最深部まで連続する。最も高い場所にしつらえられた寝室は、プライバシーをしっかりと守りつつも、ふと見下ろせば、縁側を含む"額縁"が、庭先に咲く小さな草花や、小鳥たちの訪れという、もう1つの画(え)を見せてくれる。
《湯河原 S邸》
設計:ネイチャーデコール
広々としたウッドデッキからは、果樹園の緑の向こうに、青い空と海を望むことができる邸宅。設計者である建築家の大浦比呂志氏が掲げたコンセプトは「住まいがリゾート」である。
デッキの材は耐久性に優れたレッドシダー。奥行きは最大で3m60cmあり、リクライニングチェアを置いても余りある。室内のリビング、ダイニング、和室とも緩やかに繋がりながら、バスルームの手前まで続いていく。
写真は家のコーナーに位置する和室との接続部分にあたる。L字に空けられた小窓にあわせて、高さ30cmの段差を設け、縁側としての要素を組み込んだ。身を屈めれば、開口部から和室に出入りもできる。
縁に腰を降ろせば、すぐ下を流れている小川のせせらぎが聞こえ、ミカンの白い花咲 く初夏には甘い香が、茶摘みの時期にはフレッシュな芳香も味わえる。夏の夜には小川で育った螢も舞うという。日本の四季と自然を満喫できる特等席である。
こちらの記事もおすすめ:
《湯河原 S邸》Houzzツアー/すべての始まりは一家の大英断から。果樹園や川を望む、リゾートライクな「緑抜け」の家と暮らし
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写真は家のコーナーに位置する和室との接続部分にあたる。L字に空けられた小窓にあわせて、高さ30cmの段差を設け、縁側としての要素を組み込んだ。身を屈めれば、開口部から和室に出入りもできる。
縁に腰を降ろせば、すぐ下を流れている小川のせせらぎが聞こえ、ミカンの白い花咲 く初夏には甘い香が、茶摘みの時期にはフレッシュな芳香も味わえる。夏の夜には小川で育った螢も舞うという。日本の四季と自然を満喫できる特等席である。
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《KAWATE》
設計:武藤圭太郎建築設計事務所
地上から半分浮かせたような床レベルと、スキップフロアのような構成により、緑の芝を敷いた床下に、縁側としても使える多目的空間が生まれている。
地面から床下までの高さは、1m40cmから1m70cmの間で設定した。大人にはやや低く感じられるが、子供の背丈ならちょうど良い高さで、同時に家の中のプライバシーも適度に守ってくれる。キッチンに立つ母親からの見通しも良く、内と外、互いの声も届きやすい。床下にはハンモックが吊り下げられるようになっており、すっぽりと身を包めば、庭先でちょっとしたリゾート気分が味わえるだろう。
施主が希望していた中庭の代案ではあったが、コストを抑え、面している田園風景から連続した、明るく開放的な住まいを実現した。
設計:武藤圭太郎建築設計事務所
地上から半分浮かせたような床レベルと、スキップフロアのような構成により、緑の芝を敷いた床下に、縁側としても使える多目的空間が生まれている。
地面から床下までの高さは、1m40cmから1m70cmの間で設定した。大人にはやや低く感じられるが、子供の背丈ならちょうど良い高さで、同時に家の中のプライバシーも適度に守ってくれる。キッチンに立つ母親からの見通しも良く、内と外、互いの声も届きやすい。床下にはハンモックが吊り下げられるようになっており、すっぽりと身を包めば、庭先でちょっとしたリゾート気分が味わえるだろう。
施主が希望していた中庭の代案ではあったが、コストを抑え、面している田園風景から連続した、明るく開放的な住まいを実現した。
《CASAさかのうえ》
設計:acaa
貸しギャラリーを併設した住宅の、1階中庭部分である。外部のような内部のような半屋外空間に、レッドシダーのデッキを円形にくり抜いて、縁側空間が用意されている。
敷地は造成地らしき緩やかな丘の中腹にある。周りにはコンクリートの擁壁で囲われた家々が並び、外部から中の様子は見えない。かつてこの地に建っていた中古物件も同様で、想定はしていたものの、取り壊して更地にした際に、最大で2mもある高低差が誰の目にも明らかになった。周囲の家々の外観に倣い、再び"閉ざす"ことは簡単だったが、これを機にオリジナルの地形を取り戻すことにした。土地がもつ文脈への気付きを周囲にそっと促し、町並みとしても溶け込める住まいにしようと、事務所の代表を務める岸本和彦氏は考えたのだ。
設計:acaa
貸しギャラリーを併設した住宅の、1階中庭部分である。外部のような内部のような半屋外空間に、レッドシダーのデッキを円形にくり抜いて、縁側空間が用意されている。
敷地は造成地らしき緩やかな丘の中腹にある。周りにはコンクリートの擁壁で囲われた家々が並び、外部から中の様子は見えない。かつてこの地に建っていた中古物件も同様で、想定はしていたものの、取り壊して更地にした際に、最大で2mもある高低差が誰の目にも明らかになった。周囲の家々の外観に倣い、再び"閉ざす"ことは簡単だったが、これを機にオリジナルの地形を取り戻すことにした。土地がもつ文脈への気付きを周囲にそっと促し、町並みとしても溶け込める住まいにしようと、事務所の代表を務める岸本和彦氏は考えたのだ。
貸しギャラリーのほか、施主のホーム・オフィスも内包した《CASAさかのうえ》は、折々によって人の訪れが異なる。坂道から敷地内へと緩やかに続く階段、そしてその先にある円形の縁側は、誰彼問わず、人々に憩いの場を提供している。坂の上り下りに疲れた時、段差に腰掛けて一息ついてもいいし、ギャラリーやホームオフィスを介して、新たな出逢いの場にもなる。個人邸の床下であり、半戸外であり、地域に開かれたコミュニティスペースでもある。そんな余白をもたせた中間領域が、居心地の良さに繋がっている。
テレビアニメや古い映画の場面でしか縁側を見たことがない、という人も多いだろう。それでも、私たちの暮らしから完全に消えてしまうとは考えにくい。内と外とを緩やかに結び、仕切り、人と人、家と地域の接点となる空間は、住まいを縁取り、彩りを添えてくれる。
テレビアニメや古い映画の場面でしか縁側を見たことがない、という人も多いだろう。それでも、私たちの暮らしから完全に消えてしまうとは考えにくい。内と外とを緩やかに結び、仕切り、人と人、家と地域の接点となる空間は、住まいを縁取り、彩りを添えてくれる。
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縁側tの起源は平安時代の神殿造り建築から取り入れられていると思います。
その寝殿造りの建物の中で、主人の住居を寝殿と言い、寝殿は中心にある母屋と周りの廂の間に分かれております。
母屋は壁と襖障子に囲われて、外から謝絶された個室となっています。
その周り四方をぐるっと囲んでいるのが廂の間です。
廂の間は、蔀戸(しとみど)という格子戸で囲われており、半分外のような感覚です。
縁側の造形そのモノの利用方の原型が廂の間にうかがい知ることが出来ます。