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これからの照明のあり方を予測する6つのこと【エウロルーチェ2019】
ミラノで開催された国際照明見本市では、人間中心で多機能な照明器具が注目を集めていました。
Antonia Solari
2019年4月28日
エウロルーチェはミラノサローネと同じ時期に、ミラノで2年に一度行われる照明見本市です。今年の見本市(4月9日~14日開催)では、世界中から400を超える展示者を迎え、照明の新しい方向性、つまりあらゆる面での快適さをかなえるマルチタスクな照明器具を発表するイベントとなりました。
今年の展示から見えてきたのは、これからの照明は多機能で、空間を明るく照らすだけでなく、ユーザー・エクスペリエンスを高める機能を兼ね備えたものになるだろう、ということです。騒がしい環境でも快適に過ごせるよう防音パネルを組み込んだものをはじめ、本棚やテーブル、ウォークイン・クローゼットと一体化したものもあります。さらに、多くの展示品が照明以外のテクノロジーや家具、そして自然界との対話の中で生まれたものとなっています。ヒューマン・セントリック・ライティング理論の新たな応用により、ユーザーは特定の概日リズムや位置情報、あるいは活動に応じて照明をカスタマイズできるようになります。
究極の目標は、テクノロジーに対する「繊細な」アプローチを通じて、ユーザーの生活をもっと豊かにすることです。フランス人デザイナーのチャールズ・カルパキアン(Charles Kalpakian)は次のように指摘します。「人々は、日常生活に本当に役立つように、もっと効率よくテクノロジーを使いたいと思っているのです。テクノロジーの究極の目標は、ユーザーが使いやすいと感じることでなければなりません」今年のエウロルーチェでは、このような考え方が広く浸透していました。
今年の展示から見えてきたのは、これからの照明は多機能で、空間を明るく照らすだけでなく、ユーザー・エクスペリエンスを高める機能を兼ね備えたものになるだろう、ということです。騒がしい環境でも快適に過ごせるよう防音パネルを組み込んだものをはじめ、本棚やテーブル、ウォークイン・クローゼットと一体化したものもあります。さらに、多くの展示品が照明以外のテクノロジーや家具、そして自然界との対話の中で生まれたものとなっています。ヒューマン・セントリック・ライティング理論の新たな応用により、ユーザーは特定の概日リズムや位置情報、あるいは活動に応じて照明をカスタマイズできるようになります。
究極の目標は、テクノロジーに対する「繊細な」アプローチを通じて、ユーザーの生活をもっと豊かにすることです。フランス人デザイナーのチャールズ・カルパキアン(Charles Kalpakian)は次のように指摘します。「人々は、日常生活に本当に役立つように、もっと効率よくテクノロジーを使いたいと思っているのです。テクノロジーの究極の目標は、ユーザーが使いやすいと感じることでなければなりません」今年のエウロルーチェでは、このような考え方が広く浸透していました。
ミルコ・クロサット(Mirco Crosatto)がリニア・ライト・グループ(Linea Light Group)のためにデザインしたダービー(Derby)
1. 複数の機能をひとつに
明るさを提供する以外のさまざまな機能を組み込むことで、ランプはマルチタスクをこなし、居心地のよい家をつくってくれます。
今年の見本市では、遮音性と快適さをもたらす吸音パネルを組み込んだデザインがいくつか見られました。もともとは、主に作業場用にデザインされた照明器具ですが、たとえばホームパーティでもっと快適に過ごせるなど、住宅空間の中でも活用できるようになります。
1. 複数の機能をひとつに
明るさを提供する以外のさまざまな機能を組み込むことで、ランプはマルチタスクをこなし、居心地のよい家をつくってくれます。
今年の見本市では、遮音性と快適さをもたらす吸音パネルを組み込んだデザインがいくつか見られました。もともとは、主に作業場用にデザインされた照明器具ですが、たとえばホームパーティでもっと快適に過ごせるなど、住宅空間の中でも活用できるようになります。
マッシモ・ファリナッティがマルティネリのためにデザインしたハッシュ(Hush):照明器具の一部が、カイミ・ブレヴェッティ(Caimi Brevetti)によるスノーサウンド・テクノロジーの吸音パネルで覆われている。
マテオ・ヌンツィアーティがナテヴォ(Natevo)のためにデザインしたバベル(Babele)
多機能照明を別の意味で解釈したものもありました。それが、家具と一体化した照明器具です。ビルトイン・ライトなら、棚の本を探し出したり、着たいシャツをクローゼットから見つけたりするのも簡単です。さらに、ベッドの中で読書する際にも、照明付きのベッドサイドテーブルがあれば快適です。
多機能照明を別の意味で解釈したものもありました。それが、家具と一体化した照明器具です。ビルトイン・ライトなら、棚の本を探し出したり、着たいシャツをクローゼットから見つけたりするのも簡単です。さらに、ベッドの中で読書する際にも、照明付きのベッドサイドテーブルがあれば快適です。
nendoがフロスのためにデザインしたハエル(Haeru)
ハエルは、nendoがフロスのためにデザインしたテーブルランプです。このモジュール式照明器具は3つのテーブルトップと2つの異なる照明、そして3本の脚で構成されています。
デザイナーでnendo設立者でもある佐藤オオキは次のように説明しています。「これらの構成要素の組み合わせによって、いろいろなオプションの中から選び、自由に組み立てることができるようになっています。土台を支えるのはバッテリーを内蔵した3本足のテーブルです。3本のうち2本が短くなっていて、ユーザーが自分の好みに合わせてランプやテーブルトップを追加したり変更したりできるようになっています(写真のランプの位置を参照)。「ハエル」とは日本語の「生える」という意味で、あたかもランプがテーブルから「生えて」いるように見えるところから名付けました。
ハエルは、nendoがフロスのためにデザインしたテーブルランプです。このモジュール式照明器具は3つのテーブルトップと2つの異なる照明、そして3本の脚で構成されています。
デザイナーでnendo設立者でもある佐藤オオキは次のように説明しています。「これらの構成要素の組み合わせによって、いろいろなオプションの中から選び、自由に組み立てることができるようになっています。土台を支えるのはバッテリーを内蔵した3本足のテーブルです。3本のうち2本が短くなっていて、ユーザーが自分の好みに合わせてランプやテーブルトップを追加したり変更したりできるようになっています(写真のランプの位置を参照)。「ハエル」とは日本語の「生える」という意味で、あたかもランプがテーブルから「生えて」いるように見えるところから名付けました。
ノエ・デュショフール・ローランスがクンダリーニのためにデザインしたヴァイスヴァーサ(Viceversa)
照明とその他のデザイン分野とのつながりは常に変化していますが、今年注目されているのは照明と自然界との新しいつながりです。ノエ・ディショフール・ローランスがクンダリーニのためにデザインしたヴァイスヴァーサは複数のモジュールから構成されていて、互いに並べて配置したり、植物を入れたりすることができるものです。このように、照明器具は常に進化しているのです。
ビャルケ・インゲルス・グループ(BIG)がアルテミデのためにデザインし、去年アーキデザインクラブ(ArchiDesignClub)のミューズ・インターナショナル・アワード(Muuuz International Awards: MIAW)を受賞したゴープルRWB(Gople RWB)の背景にも同じような考え方があります。ベースとなるアイデアは、「照明が自然を育む」で、植物の自然な成長を促すためにRWBテクノロジーを使用しています。2011年に特許を取得したRWB(赤、白、青)ライトは、植物の成長および開花の時期に、必要に応じて出力を調整することにより植物の生育を促進します。
照明とその他のデザイン分野とのつながりは常に変化していますが、今年注目されているのは照明と自然界との新しいつながりです。ノエ・ディショフール・ローランスがクンダリーニのためにデザインしたヴァイスヴァーサは複数のモジュールから構成されていて、互いに並べて配置したり、植物を入れたりすることができるものです。このように、照明器具は常に進化しているのです。
ビャルケ・インゲルス・グループ(BIG)がアルテミデのためにデザインし、去年アーキデザインクラブ(ArchiDesignClub)のミューズ・インターナショナル・アワード(Muuuz International Awards: MIAW)を受賞したゴープルRWB(Gople RWB)の背景にも同じような考え方があります。ベースとなるアイデアは、「照明が自然を育む」で、植物の自然な成長を促すためにRWBテクノロジーを使用しています。2011年に特許を取得したRWB(赤、白、青)ライトは、植物の成長および開花の時期に、必要に応じて出力を調整することにより植物の生育を促進します。
トビアス・グローのソルト&ペッパーライト
2. どこでも好きな場所へ
エウロルーチェ2019で見られたもうひとつの大きなトレンドが、持ち運びのできるワイヤレスランプです。展示されていた照明はシンプルなUSBケーブルを使って充電でき、これまでのモデルに比べて電池寿命も長くなっていました。たとえばトビアス・グローのソルト&ペッパーは最長100時間まで明るさが持続します。このような製品はコンセントから遠い場所にも置くことができるほか、部屋から部屋へ、さらには屋外へと簡単に移動させることができます。
持ち運べる照明で、お気に入りの空間を演出しよう
2. どこでも好きな場所へ
エウロルーチェ2019で見られたもうひとつの大きなトレンドが、持ち運びのできるワイヤレスランプです。展示されていた照明はシンプルなUSBケーブルを使って充電でき、これまでのモデルに比べて電池寿命も長くなっていました。たとえばトビアス・グローのソルト&ペッパーは最長100時間まで明るさが持続します。このような製品はコンセントから遠い場所にも置くことができるほか、部屋から部屋へ、さらには屋外へと簡単に移動させることができます。
持ち運べる照明で、お気に入りの空間を演出しよう
ティモン・アンド・メルキオール・グロー(Timon and Melchior Grau)がトビアス・グローのためにデザインしたパロット(Parrot)
そのうえ、屋外配線要らずでバルコニー、テラス、そして庭を明るく照らすことができるようになりました。持ち運びのできる照明だからハイテクではない、というわけでもありません。光の温度と強さを調整できる調光機能がついています。
そのうえ、屋外配線要らずでバルコニー、テラス、そして庭を明るく照らすことができるようになりました。持ち運びのできる照明だからハイテクではない、というわけでもありません。光の温度と強さを調整できる調光機能がついています。
イケアのシンフォニスク(Symfonisk)
3. スマートライト
照明を遠隔操作するためのアプリを開発したメーカーもいくつかあります。そうしたアプリを使って照明のオン・オフ、光の強さと温度の調整(落ち着きのある暖色系から集中力を高める寒色系まで)が可能です。
イケアがソノスと共同開発したシンフォニスクはスピーカー内蔵の照明器具で、専用アプリを使って照明の調整だけでなく音楽の再生もできます。
3. スマートライト
照明を遠隔操作するためのアプリを開発したメーカーもいくつかあります。そうしたアプリを使って照明のオン・オフ、光の強さと温度の調整(落ち着きのある暖色系から集中力を高める寒色系まで)が可能です。
イケアがソノスと共同開発したシンフォニスクはスピーカー内蔵の照明器具で、専用アプリを使って照明の調整だけでなく音楽の再生もできます。
アルテミデが開発したアプリの概日リズムに関するページ
4. ヒューマン・セントリック・ライティング
ヒューマン・セントリック・ライティング理論――つまり、照明デザインで優先すべきは個人の生活の豊かさであるという考え方――の実用化が進んでいます。全体的な目標はユーザーの好み、環境、エネルギーレベル、精神状態を最適化し、不適切な照明といった無駄をなくすことです。
4. ヒューマン・セントリック・ライティング
ヒューマン・セントリック・ライティング理論――つまり、照明デザインで優先すべきは個人の生活の豊かさであるという考え方――の実用化が進んでいます。全体的な目標はユーザーの好み、環境、エネルギーレベル、精神状態を最適化し、不適切な照明といった無駄をなくすことです。
ダイソンのライトサイクル(Lightcycle)
たとえばダイソンのライトサイクルは、年齢、生活習慣、地域の日照状況に基づいてユーザーが照明をカスタマイズできるようになっています。専用アプリには、さまざまな活動に適した照明があらかじめ設定されています。
たとえばダイソンのライトサイクルは、年齢、生活習慣、地域の日照状況に基づいてユーザーが照明をカスタマイズできるようになっています。専用アプリには、さまざまな活動に適した照明があらかじめ設定されています。
アルテミデのジオLi-Fi(Geo-Li Fi)
5. 拡張現実(AR)
空間に関するデータを調整して個々の体験を拡張するために、照明器具を使うことがますます増えています。たとえば、アルテミデのジオLi-Fi器具は、位置情報メディアを送信できるスマートLi-FiのLED照明を使用しています。この照明は空間内の人の動きを追跡し、その人の好みをモニタリングして求められる情報を送信することができます。
利用例のひとつとして、顧客が店内の商品を見て回る際の情報を店舗運営側に送信するというのも考えられます。このように、照明器具は幅広く利用できるツールとなってきているのです。
5. 拡張現実(AR)
空間に関するデータを調整して個々の体験を拡張するために、照明器具を使うことがますます増えています。たとえば、アルテミデのジオLi-Fi器具は、位置情報メディアを送信できるスマートLi-FiのLED照明を使用しています。この照明は空間内の人の動きを追跡し、その人の好みをモニタリングして求められる情報を送信することができます。
利用例のひとつとして、顧客が店内の商品を見て回る際の情報を店舗運営側に送信するというのも考えられます。このように、照明器具は幅広く利用できるツールとなってきているのです。
ダヴィデ・グロッピのオーム(Ohm)
6. 空間の定義
今年の見本市で発表された照明器具の中には、極細で彫り込まれた溝やLEDストリップ、また折りたためるエレメントを通して光を注ぐものもありました。写真のように、このような方法で、スペースの境界線を引きながらその中にある体積を明るく照らし、空間のジオメトリを定義するのに役立つものもあります。
6. 空間の定義
今年の見本市で発表された照明器具の中には、極細で彫り込まれた溝やLEDストリップ、また折りたためるエレメントを通して光を注ぐものもありました。写真のように、このような方法で、スペースの境界線を引きながらその中にある体積を明るく照らし、空間のジオメトリを定義するのに役立つものもあります。
アリック・レヴィがヴィビアのためにデザインしたスティックス(Sticks)
「手書き文字のような動きが光と影の遊びを生み出します。照明器具に置き換えると、その動きが機能となるのです」と、ネモのデザイナー、チャールズ・カルパキアンは話します。
【ミラノサローネ2019】9つのトレンドに見る、変わりゆくデザイン
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