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知ればもっと楽しい、カトラリー:歴史と素材
普段なにげなく使っているカトラリーの始まりは、中世ヨーロッパにさかのぼります。エレガントなシルバーカトラリーを中心に、そのストーリーをひもといてみましょう。
Mami Natsui
2016年6月30日
東京・目黒のフランス雑貨&アンティークショップ「M'amour(マムール)」オーナー。アパレルメーカー海外事業部に勤務後、フランスのインテリアブランドの日本立ち上げ、カフェオーナー業に従事。ヨーロッパを中心に、複数の取引先へのオーダーや買付け業務の為、年数回の海外出張をしている。衣食住全般の仕事に関わり、「M'amour」オープン後はとくに物への愛情とこだわりを発揮中。出張の際は必ず一日は安ホテルを抜け出し、話題のインテリアのホテルへ宿泊し、老後の楽しみにアルバム作りに精を出す。
東京・目黒のフランス雑貨&アンティークショップ「M'amour(マムール)」オーナー。アパレルメーカー海外事業部に勤務後、フランスのインテリアブランドの日本立ち上げ、カフェオーナー業に従事... もっと見る
テーブルウェアの5つの基本といえば、食器、テーブルリネン、センターピースと呼ばれる中央の装飾品(お花やコンポートにのせたフルーツ、キャンドルスタンドなど)、グラス、そしてカトラリー。それぞれにさまざまな歴史や役割がありますが、今回はこの中からカトラリーを取り上げてご紹介します。
フランスのテーブルウェアやアンティーク雑貨の輸入の仕事を通じて、またお客様からご質問をいただいて調べたりしているうちに、いつの間にか詳しくなったカトラリーのこと。このシリーズでは、カトラリーに関するベーシックな知識や使い方をお伝えしていきます。知っていると楽しく、普段のお食事やティータイムでお気に入りのカトラリーを使うときにちょっと思い出して、そのアイテムにさらに愛着の増すようなお話ができたらいいなと思います。
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カトラリー誕生以前の食事風景
カトラリーの成り立ちを語るうえで欠かせないのが、フランス料理の歴史でしょう。
14世紀ごろまで、フランスではお皿もフォークもナプキンもありませんでした。丸く切った厚いパンをお皿代わりにしていたようで、ナイフとスプーンはありましたが、フォークはまだ使われていませんでした。現代のエレガントなフランス料理の作法からは想像もつきませんが、なんと人々は手の指を使って食べていたのだそうです。そしてナプキンもまだ存在しておらず、長く垂れ下がったテーブルクロスで、各自が手や口を拭いていました。
カトラリーの成り立ちを語るうえで欠かせないのが、フランス料理の歴史でしょう。
14世紀ごろまで、フランスではお皿もフォークもナプキンもありませんでした。丸く切った厚いパンをお皿代わりにしていたようで、ナイフとスプーンはありましたが、フォークはまだ使われていませんでした。現代のエレガントなフランス料理の作法からは想像もつきませんが、なんと人々は手の指を使って食べていたのだそうです。そしてナプキンもまだ存在しておらず、長く垂れ下がったテーブルクロスで、各自が手や口を拭いていました。
無骨な捌き道具だったナイフ
今でこそ、食事用のナイフはデザインも趣向を凝らされ、ハイブランドがデザインしたおしゃれなものなども多くあります。しかしもともとテーブルナイフという道具は、家畜を捌くほか、武器として用いられていた短刀を、“Decoupage”(デクパージュ)という食事の際の肉の切り分けセレモニーのときなどに使ったのが始まりでした。
今でこそ、食事用のナイフはデザインも趣向を凝らされ、ハイブランドがデザインしたおしゃれなものなども多くあります。しかしもともとテーブルナイフという道具は、家畜を捌くほか、武器として用いられていた短刀を、“Decoupage”(デクパージュ)という食事の際の肉の切り分けセレモニーのときなどに使ったのが始まりでした。
嫁入り道具としてイタリアから伝わったフォーク
では、フォークはいつからフランス料理で使われたのかというと、16世紀半ば、イタリアのカトリーヌ・ド・メディチがお嫁入りの際にフランスに持ち込んだのが最初と言われています(当時のフォークの歯はたった2本でした)。ただし、このフォークが一般的に使われるようになったのは、ルネッサンス絵画などでもよく見かける、あのエリマキトカゲのような大きな襟「コルレット」が流行してからです。フォークを使って食べると、この襟が汚れなかったという、まさに衣食住がリンクした中世の歴史のワンシーンをうかがい知ることができます。
では、フォークはいつからフランス料理で使われたのかというと、16世紀半ば、イタリアのカトリーヌ・ド・メディチがお嫁入りの際にフランスに持ち込んだのが最初と言われています(当時のフォークの歯はたった2本でした)。ただし、このフォークが一般的に使われるようになったのは、ルネッサンス絵画などでもよく見かける、あのエリマキトカゲのような大きな襟「コルレット」が流行してからです。フォークを使って食べると、この襟が汚れなかったという、まさに衣食住がリンクした中世の歴史のワンシーンをうかがい知ることができます。
フランス美食文化と歩みを同じくして
ヨーロッパ宮廷文化の中心は、フランスのヴェルサイユ宮殿にありました。ロココ時代と呼ばれる、豪華絢爛な享楽の時代です。料理の世界にもいよいよ「フランス式サービス」と呼ばれるものが登場します(ちなみに「フランス式サービス」とはもともと、最初にすべての料理を装飾的に並べるもので、今のように一皿ずつ順番に供されるスタイルは「ロシア式サービス」といわれています)。メニュー構成、食卓の席順、テーブルに並ぶものなどは、貴族社会の権力を反映するものでもありました。美食と、華麗な装飾文化とともに、カトラリーの種類も増えていきました。
ヨーロッパ宮廷文化の中心は、フランスのヴェルサイユ宮殿にありました。ロココ時代と呼ばれる、豪華絢爛な享楽の時代です。料理の世界にもいよいよ「フランス式サービス」と呼ばれるものが登場します(ちなみに「フランス式サービス」とはもともと、最初にすべての料理を装飾的に並べるもので、今のように一皿ずつ順番に供されるスタイルは「ロシア式サービス」といわれています)。メニュー構成、食卓の席順、テーブルに並ぶものなどは、貴族社会の権力を反映するものでもありました。美食と、華麗な装飾文化とともに、カトラリーの種類も増えていきました。
多種多様なカトラリーの発達
カトラリーのうち、個々で使うものをざっと挙げてみますと……。
・テーブルスプーン、フォーク、ナイフ
・スタンダードスプーン、フォーク、ナイフ(テーブルスプーン、フォーク、ナイフよりより少し小さめ)
・お魚用フォーク、ナイフ、ソーススプーン
・コンソメスプーン、サラダフォーク
・デザートスプーン、フォーク、ナイフ
このほか、フルーツ用、ケーキ用のスプーンとフォークもあり、用途が細かく分かれていきます。
その後のフランス革命や産業革命により、貴族ではない、商業や金融業で台頭してきたお金持ちが増え、そのニーズと技術の進化に伴い、さまざまなサービス用カトラリーも生まれました。レードル、サーバー、チーズナイフ、バターナイフ、ティースプーン、コーヒースプーンと、こちらも挙げればきりがないほど、カトラリーの種類は多くなっていくのです。
カトラリーのうち、個々で使うものをざっと挙げてみますと……。
・テーブルスプーン、フォーク、ナイフ
・スタンダードスプーン、フォーク、ナイフ(テーブルスプーン、フォーク、ナイフよりより少し小さめ)
・お魚用フォーク、ナイフ、ソーススプーン
・コンソメスプーン、サラダフォーク
・デザートスプーン、フォーク、ナイフ
このほか、フルーツ用、ケーキ用のスプーンとフォークもあり、用途が細かく分かれていきます。
その後のフランス革命や産業革命により、貴族ではない、商業や金融業で台頭してきたお金持ちが増え、そのニーズと技術の進化に伴い、さまざまなサービス用カトラリーも生まれました。レードル、サーバー、チーズナイフ、バターナイフ、ティースプーン、コーヒースプーンと、こちらも挙げればきりがないほど、カトラリーの種類は多くなっていくのです。
カトラリーの最上級素材
カトラリーの素材としては、鋼、真鍮、ピューターなどの素材を経て、美しいうえに食物の味を変えないということで、シルバーが最上級とされ、人気となりました。
英国では、シルバーの純度をライオンのマークの刻印により保証し、製造地や年代も表記する「ホールマーク制度」が16世紀に確立しています。
フランスにも同様に純度を保証する「ミネルバ」という女神のマークなどがありますが、英国のように体系的に整ってはいませんでした。他のヨーロッパに比べても、英国では特に優れた管理方法が採用されていたようです。
カトラリーの素材としては、鋼、真鍮、ピューターなどの素材を経て、美しいうえに食物の味を変えないということで、シルバーが最上級とされ、人気となりました。
英国では、シルバーの純度をライオンのマークの刻印により保証し、製造地や年代も表記する「ホールマーク制度」が16世紀に確立しています。
フランスにも同様に純度を保証する「ミネルバ」という女神のマークなどがありますが、英国のように体系的に整ってはいませんでした。他のヨーロッパに比べても、英国では特に優れた管理方法が採用されていたようです。
スターリングシルバーとシルバープレート
接客していると、シルバー=純銀と思われているお客様が多いことにたびたび気づかされますが、現在シルバーウェアとされているものは大きく分けると2種類あります。純度92.5%のスターリングシルバー(sterling silver)と、合金に純銀でコーティングしたシルバープレート(silver plated)です。純銀は大変やわらかく硫化による変色もしやすいため、強度と美しさを保つために7.5%の合金を加えて鋳造したものがスターリングシルバー。シルバープレート(つまり銀メッキ)は19世紀中頃から普及し、スターリングシルバーに比べてお手頃価格ですが、それまでできなかったさまざまなデザインがつくられるようになり、人気を博しました。特にフランスの〈クリストフル社〉により、電気分解法によるシルバープレートが発明されてからは、カトラリーの素材の中心となりました。
接客していると、シルバー=純銀と思われているお客様が多いことにたびたび気づかされますが、現在シルバーウェアとされているものは大きく分けると2種類あります。純度92.5%のスターリングシルバー(sterling silver)と、合金に純銀でコーティングしたシルバープレート(silver plated)です。純銀は大変やわらかく硫化による変色もしやすいため、強度と美しさを保つために7.5%の合金を加えて鋳造したものがスターリングシルバー。シルバープレート(つまり銀メッキ)は19世紀中頃から普及し、スターリングシルバーに比べてお手頃価格ですが、それまでできなかったさまざまなデザインがつくられるようになり、人気を博しました。特にフランスの〈クリストフル社〉により、電気分解法によるシルバープレートが発明されてからは、カトラリーの素材の中心となりました。
美しい意匠を競うように
こちらは、アンティークの美しいデザート&フルーツ用カトラリーセット。美しい文様をエングレーヴィングで施したナイフ、その柄にはマザーオブパール(真珠貝)が使われています。このように厚みのあるマザーオブパールを使った柄は、現代では入手不可能で、アンティークカトラリーの中でもとりわけエレガントで使いやすく、とても人気があります。
こちらは、アンティークの美しいデザート&フルーツ用カトラリーセット。美しい文様をエングレーヴィングで施したナイフ、その柄にはマザーオブパール(真珠貝)が使われています。このように厚みのあるマザーオブパールを使った柄は、現代では入手不可能で、アンティークカトラリーの中でもとりわけエレガントで使いやすく、とても人気があります。
こちらの写真は、ロンドンの有名な美術品オークションハウス〈クリスティーズ〉の競売前のプレビューの時に見たもの。シルバーは歴史的にも大切な財産とされてきたので、今でもこのようにクリスティーズのオークションなどでも売買されています。
やはり英国製がいちばん?
食卓を彩るアクセサリーともいうべき、さまざまな美しいアンティークのカトラリー。左から、ジャム用、ベリー用、砂糖用です。特に英国のアンティークカトラリーは、驚くほど豊富な種類と華やかなデザインがあり、その歴史や時代を物語りつつ、今の時代に受け継がれています。フランスのブルジョア家庭でも、シルバーは英国製が好まれるといいます。
私もフランスのデザインは繊細でもちろん大好きですが、シルバーのクオリティと値段のバランスを考慮すると、英国製カトラリーの素晴らしさには格別に魅せられます。
食卓を彩るアクセサリーともいうべき、さまざまな美しいアンティークのカトラリー。左から、ジャム用、ベリー用、砂糖用です。特に英国のアンティークカトラリーは、驚くほど豊富な種類と華やかなデザインがあり、その歴史や時代を物語りつつ、今の時代に受け継がれています。フランスのブルジョア家庭でも、シルバーは英国製が好まれるといいます。
私もフランスのデザインは繊細でもちろん大好きですが、シルバーのクオリティと値段のバランスを考慮すると、英国製カトラリーの素晴らしさには格別に魅せられます。
ステンレス素材が主流となった今でも、クラシカルなデザインのカトラリーは、食卓にフォーマルな雰囲気を与えてくれます。
次回は、そんなテーブル上での魅力を放つ、上質なカトラリーのセッティングのルールや、おしゃれな収納方法などもご紹介したいと思います。どうぞお楽しみに。
コメント募集中!
カトラリーについてどんなことが知りたいですか? 下のコメント欄を使って教えてください!
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