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今週の部屋:世界にひとつのバッグが作られる、アーティストの街のアトリエ
「世界の暮らしとデザイン:世界11カ国のアーティストや職人のアトリエを拝見」で紹介されたバッグデザイナーのアトリエ。ちょっと異色の「今週の部屋」をお届けします。
田村敦子|Atsuko Tamura
2015年9月21日
Freelance Editor
コンテンポラリーアートの小さなギャラリーが点在し、アーティストや職人が仕事場や工房を構え、材料問屋街も近いものづくりの街、東京・東神田界隈。4階建ての築約40年の建物の1階、もともとガレージだった43平方メートルのスペースを、2011年4月に大家さんから借りた、バッグデザイナーのシロヤマアケミさん。その後数カ月かけて、フロアタイルをはがして防塵塗料を塗布し、壁をはがして断熱材を入れて漆喰を塗り、柱などのさびを落としてペンキを塗り…と、かなりの部分をDIYで自身のアトリエに改造した。大工さんに依頼したのは、天井を抜く作業と、天井近くに作った材料の生地と皮革用の棚と、特大の作業台の製作のみ。入り口から見て手前半分は作品のギャラリー、ピンクのシアーカーテンで仕切られた奥半分はアトリエで、バッグの材料を裁断し、ミシンや手作業で縫い合わせる作業をすべて行える工房だ。家具や小物でフェミニンなディテールを少しだけ加えたインダストリアルな雰囲気の空間に、完成品のカラフルなバッグ、材料のテキスタイルや革、パーツなどのストック、そして道具類がぎっしりと並んでいる。
「世界の暮らしとデザイン」の記事を読む:
世界の暮らしとデザイン:楽器職人からストリートアート作家まで、世界11カ国のアーティストや職人のアトリエを拝見
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ものづくりを仕事にしている人のアトリエは、家に趣味の作業室などを持つ人の参考にもなるはず。ほぼDIYで工房とギャラリースペースを完成させた、シロヤマさんの仕事部屋をのぞいてみよう。
どんな部屋?
何をする部屋?カスタムメイドバッグのデザイン、制作をするアトリエ、作品をディスプレイするギャラリー、お客様を迎えるサロン
所在地:東京・東神田
専有面積:約43平方メートル
どんな部屋?
何をする部屋?カスタムメイドバッグのデザイン、制作をするアトリエ、作品をディスプレイするギャラリー、お客様を迎えるサロン
所在地:東京・東神田
専有面積:約43平方メートル
入り口から奥を見ると、色とりどりのテキスタイルや革、糸やパーツなど材料棚とミシンが見える。シロヤマさんが座っている前が作業台兼、お客さんとデザインについて相談するコンサルティングカウンターだ。
入り口付近、ギャラリースペースのインテリアは、置いてあるバッグや材料がカラフルな分、とてもシンプル。「エントランスは、誰かの家を訪れたような雰囲気にしたかった」そうで、バッグの雰囲気に合わせた靴や洋服をディスプレイしている。
ギャラリースペースの一角、このあたりに何か絵が欲しいな…と思ったというシロヤマさん。漆喰の壁にHBの鉛筆でじかに、羽ばたく鳥たちのイラストを描いた。「友人に頼んで描いてもらおうかと思っていたのですが、ふと自分で描き始めてみたら案外描けたので(笑)」。友人のアーティストが作ったアクセサリーなども飾る、コラボレーションスペースとして活用しているコーナーだ。
「バッグの制作アトリエだからってバッグだけしか置いていないと、なんだかまじめすぎてつまらないですよね」。ファッションデザイナー出身のシロヤマさんが作ったワンピースドレスや、バッグとコーディネートしたい靴や帽子などファッション小物が棚に並び、おしゃれな人のクローゼットを見ている気分になる。
おもにフランスで仕入れてくる、精緻な織り柄やはっとするような色合わせの、宝石のような美しいテキスタイル。専用の棚に、色別に収納してある。なるべく折りじわがつかないように、大きくたたんで収納する必要があるので、幅も奥行きも大きめに取った。
バッグをオーダーする人の好みや使用目的、シーンに合わせ、シロヤマさんがここから生地を何点かピックアップして提示し、調整を重ねながら組み合わせを一緒に決めていく。漢方の処方のようなイメージだ。
バッグをオーダーする人の好みや使用目的、シーンに合わせ、シロヤマさんがここから生地を何点かピックアップして提示し、調整を重ねながら組み合わせを一緒に決めていく。漢方の処方のようなイメージだ。
中央の作業台の上には、手作りの小さな棚が吊ってある。内側に照明とマグネットが仕込んであり、写真では見えないが、マグネット部分にはバッグ作りに欠かせない工具がすぐに手に取れるように、ハンドルをこちらに向けてきちんと並べてくっつけてある。使い込まれたはさみや目打ち、へらなど、無骨な工具が収納されている場所に、レースやエンジェル、鳥のマスコットなど可愛らしいモチーフをあしらって、ちょっとした遊び心と余裕も忘れていない。
ほとんどDIYでシロヤマさん自身が仕上げたアトリエだが、財産ともいえる大切な皮革やテキスタイル素材を湿気やカビから守るための専用棚は、腕のいい大工さんに作ってもらった。何本もの柱で補強した、ロフトスペースのようなこの棚は、車を1台乗せても大丈夫なくらいの強度があるそうだ。
ほとんどDIYでシロヤマさん自身が仕上げたアトリエだが、財産ともいえる大切な皮革やテキスタイル素材を湿気やカビから守るための専用棚は、腕のいい大工さんに作ってもらった。何本もの柱で補強した、ロフトスペースのようなこの棚は、車を1台乗せても大丈夫なくらいの強度があるそうだ。
ピンクのシアーカーテンで部屋の真ん中を区切り、入り口から見て手前側をショールームに、奥側を作業スペースにしている。もう25年ほど前、青山にあった英国人ファッションデザイナー、クリストファー・ネメスのお店が、このアトリエのレイアウトとコンセプトのアイデアのもとになっている。シロヤマさんが刺激を受けたそのお店では、洋服が並んだショップスペースの奥にミシンが置いてあって、カーテンの奥で彼自身がミシンを踏む音が聞こえた。「世界の暮らしとデザイン」のインタビューにもある通り、それはオープンキッチンのレストランを思わせたのだそうだ。「奥で蕎麦を打っているのが見えるお蕎麦屋さんとか、オーブンから焼きたての香りが漂ってくるパン屋さんもそうですよね。作っている現場が見えて、ほかほかのできたてを買える。そんなアトリエがいいなと、若いころからずっと考えていました」
作っているバッグのデザインの型は37種類にも及ぶ。その中から選んだ形を、好きな色や柄のテキスタイルや革、パーツを組み合わせて作るのだから、デザインの種類は無限大、そして世界にひとつのものだ。働く時間を楽しめる、仕事をがんばる女性のためのバッグが多いシロヤマさんの作品。機能的である必要があり、シンプルでオーソドックスなデザインが主だが、その分、色や柄で冒険して遊ぼう!というのがコンセプトになっている。「荷物を持ってくれる」ことはもちろん、毎日小脇に抱えられ、外出先での活動をサポートし、経験を共有する相棒的存在、それがバッグ。だからこそ、大好きな色や柄や素材を使って、自分をいつも元気づけることが大切なのだそう。
手の込んだ織りや刺繍の見事なテキスタイルを組み合わせて作ったバッグは、上質なインテリアファブリックを使った椅子やソファやクッション、カーテンなどを思い起こさせる。ウィッカーチェアに無造作に置かれたバッグも、ちょっと絵になる風景だ。
「まさにそれを意識しています。椅子に置いてあったり、壁に掛けてあったりしているときでも、バッグには美しい姿でいてほしい」とシロヤマさん。「持ち運ぶのがメインの用途のバッグだけれど、使っていないときに美しくないのは悲しいですよね。きれいなファブリックのクッションのように、部屋に置いてもアクセントになる、そしてそれを見てまた元気になれる、そんなバッグを作りたいと思っています」
「まさにそれを意識しています。椅子に置いてあったり、壁に掛けてあったりしているときでも、バッグには美しい姿でいてほしい」とシロヤマさん。「持ち運ぶのがメインの用途のバッグだけれど、使っていないときに美しくないのは悲しいですよね。きれいなファブリックのクッションのように、部屋に置いてもアクセントになる、そしてそれを見てまた元気になれる、そんなバッグを作りたいと思っています」
この手作りのアトリエでバッグを作り始めて4年。ものづくりをするには理想的な環境の静かなエリアで、毎日材料とミシンと向かい合って黙々と働き、「あぁ、今日もきれいに仕上げることができてよかったな」という達成感と、喜んでくれるお客さんとの会話が活力になっているというシロヤマさん。アーティストと職人の町の小さなアトリエで、ワン・アンド・オンリーのバッグがある一人の人のために、今日もまた作り続けられている。
「世界の暮らしとデザイン」の記事を読む:
世界の暮らしとデザイン:楽器職人からストリートアート作家まで、世界11カ国のアーティストや職人のアトリエを拝見
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