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Houzzツアー:150年を経た民家を生まれ変わらせるリノベーション「湯沢の住宅」
永く家族を育んできた民家に、現代的な性能と意匠を与えて蘇らせる再生手法をご紹介します。
Tetsu Takeba
2015年10月1日
Houzzコントリビューター。
出版社勤務を経て、編集事務所「Nect」設立。
建築・建設分野を中心に、
書籍や雑誌等の編集を手掛けております
秋田県の内陸部南端に位置する湯沢市。平安時代の歌人、小野小町の生地ともいわれるこの地は、稲庭うどんの故郷として、また冬の積雪量の多さでも有名である。
今回のHouzzツアーでご紹介するのは、この地に150年以上建つお宅のリノベーションである。
リノベーションによって生まれ変わった家に住んで9年。住まい手のご夫婦はこう話す。
「元々2部屋だったところが1部屋に、2部屋だったところが3部屋に再編され、あるところは天井が低くなり、またあるところは床が掘り下げられたり……。こうして生まれ変わった空間が素晴らしく、日々楽しく生活しています。ご覧のとおり風通しもとても良いので暑い夏もエアコン要らずです」。
「元々2部屋だったところが1部屋に、2部屋だったところが3部屋に再編され、あるところは天井が低くなり、またあるところは床が掘り下げられたり……。こうして生まれ変わった空間が素晴らしく、日々楽しく生活しています。ご覧のとおり風通しもとても良いので暑い夏もエアコン要らずです」。
「また夜に照明を点けた空間もとても気に入っていて、9年経った今も、ふとしたときに見とれることがありますね」。(住まい手のご夫婦)
どんなHouzz?
居住者:祖父母+夫婦+子ども2人
所在地:秋田県湯沢市
設計:納谷建築設計事務所
規模:地上2階
構造:木造
延床面積:271.00平方メートル(81.98坪)
1階面積:216.00平方メートル(65.34坪)
2階面積:55.00平方メートル(16.64坪)
竣工:2006年
写真:吉田誠/吉田写真事務所
どんなHouzz?
居住者:祖父母+夫婦+子ども2人
所在地:秋田県湯沢市
設計:納谷建築設計事務所
規模:地上2階
構造:木造
延床面積:271.00平方メートル(81.98坪)
1階面積:216.00平方メートル(65.34坪)
2階面積:55.00平方メートル(16.64坪)
竣工:2006年
写真:吉田誠/吉田写真事務所
(写真は改修前の全景)
設計を手掛けたのは納谷学さんと納谷新さんのご兄弟が主宰する納谷建築設計事務所。兄の納谷学さん(以下、学さん)はこう語る。
「実は、最初は住まい手のご夫婦が、ご両親の住んでいたこの家に同居するにあたって、2世帯住宅を新築で建て直したいというご相談でした。それでまずは現地を拝見するため、雪解けの頃……今も良く覚えていますが4月の初旬にお伺いしたのです。まだ庇に届くくらい雪が残る中で見たこの建物は、確かに長い年月と厳しい気候によって外壁などに傷みはありましたが、躯体をはじめとする内部はとてもしっかりとしていました。それでこれを取り壊したうえで新築するのではなく、この建物を活かしたリノベーションを積極的にご提案させていただきました」。
150年を経た民家を再生する……。今でこそ、リノベーションという言葉が知られ、それを手掛ける建築家も増えたが、このプロジェクトがスタートした10年程前はこうしたことはまだ一般的ではなかった。この作品以前からリノベーションで話題作を手掛けてきた納谷建築設計事務所は、この分野のさきがけとしても知られている。弟の納谷新さん(以下、新さん)はこう語る。
「古い家のリノベーションは多くの場合、図面というものがありません。だから設計はまず現場を実測することからスタートし、現状を見ながら現場で判断をしていくというライブ感溢れる作業になります。実際に壁を外したら予想と違う状況だったりすることも多々ありますので、経験が求められる仕事ですね」。
こちらのお宅も、床下からかつての囲炉裏が3つも出てくるなど、さまざまな発見があったという。
設計を手掛けたのは納谷学さんと納谷新さんのご兄弟が主宰する納谷建築設計事務所。兄の納谷学さん(以下、学さん)はこう語る。
「実は、最初は住まい手のご夫婦が、ご両親の住んでいたこの家に同居するにあたって、2世帯住宅を新築で建て直したいというご相談でした。それでまずは現地を拝見するため、雪解けの頃……今も良く覚えていますが4月の初旬にお伺いしたのです。まだ庇に届くくらい雪が残る中で見たこの建物は、確かに長い年月と厳しい気候によって外壁などに傷みはありましたが、躯体をはじめとする内部はとてもしっかりとしていました。それでこれを取り壊したうえで新築するのではなく、この建物を活かしたリノベーションを積極的にご提案させていただきました」。
150年を経た民家を再生する……。今でこそ、リノベーションという言葉が知られ、それを手掛ける建築家も増えたが、このプロジェクトがスタートした10年程前はこうしたことはまだ一般的ではなかった。この作品以前からリノベーションで話題作を手掛けてきた納谷建築設計事務所は、この分野のさきがけとしても知られている。弟の納谷新さん(以下、新さん)はこう語る。
「古い家のリノベーションは多くの場合、図面というものがありません。だから設計はまず現場を実測することからスタートし、現状を見ながら現場で判断をしていくというライブ感溢れる作業になります。実際に壁を外したら予想と違う状況だったりすることも多々ありますので、経験が求められる仕事ですね」。
こちらのお宅も、床下からかつての囲炉裏が3つも出てくるなど、さまざまな発見があったという。
「この作品の施工面で大きかった話は2つあります。1つは基礎周り。元々、石の上に束が立っているだけの状態でしたが、これをジャッキアップしてコンクリートのベタ基礎にしました。そしてもう1つが柱や梁といった躯体です。豪雪地帯に建つこの家を150年以上も支えていたのでつくりはとてもがっしりしていたのですが、長年の積雪加重や地盤の変化などによって歪みが生じていました。基礎を打ち直す際にこうした柱・梁の歪みを極力水平・垂直に近くなるよう補正しました。こうして、この先も永く安心して住んでいただけるよう、しっかりとした耐震性能を確保しています」。(学さん)
150年を経た建物を残すうえで、当初、住まい手のご夫婦が心配していたのが冬の寒さだったという。
「断熱がまったくない昔ながらのつくりでしたので、それまで冬は特に厳しく、文字通り“凍るような寒さ”だったそうです。だから当初、『リノベーションで本当にその点も大丈夫ですか?』ということは聞かれました。それに対して私たちは『大丈夫です!』と。なぜ私たちがそのように自信をもって言えたかというと、この前年に同じ秋田で私たちの実家の新築を手掛けており、そこで採用した手法がとても効果的だったので、私たちは経験として“絶対に暖かくできる”自信があったのです」。(学さん)
その手法とは、前述の基礎工事の際に断熱材を床下に配し、また居住空間の外側に回廊などの空気層を設けるというもの。
「断面的に見ると、外と接する壁があって、その内側に空気層と断熱材がドーナツ状にあって、さらにその内側に居室を配置しています。つまり空気層と断熱材で居住空間を包み込んでいるわけですね。昔の家でも、外部に近いところに土間や広縁、廊下などを配置しているケースがありますが、あれはそういった空間を空気層にすることで、少しでも居室を暖かくするという昔の人の知恵なのです」。(新さん)
「断熱がまったくない昔ながらのつくりでしたので、それまで冬は特に厳しく、文字通り“凍るような寒さ”だったそうです。だから当初、『リノベーションで本当にその点も大丈夫ですか?』ということは聞かれました。それに対して私たちは『大丈夫です!』と。なぜ私たちがそのように自信をもって言えたかというと、この前年に同じ秋田で私たちの実家の新築を手掛けており、そこで採用した手法がとても効果的だったので、私たちは経験として“絶対に暖かくできる”自信があったのです」。(学さん)
その手法とは、前述の基礎工事の際に断熱材を床下に配し、また居住空間の外側に回廊などの空気層を設けるというもの。
「断面的に見ると、外と接する壁があって、その内側に空気層と断熱材がドーナツ状にあって、さらにその内側に居室を配置しています。つまり空気層と断熱材で居住空間を包み込んでいるわけですね。昔の家でも、外部に近いところに土間や広縁、廊下などを配置しているケースがありますが、あれはそういった空間を空気層にすることで、少しでも居室を暖かくするという昔の人の知恵なのです」。(新さん)
外壁は意匠的になるべく従来の面影が残るように木の壁を再生しながら、サッシは現代のものを用い、また開口部にはペアガラスを採用している。
「北国に住む者にとって冬期の生活の質というのはとても重要です。生まれ変わったこの家は断熱性や保湿性がとても高く、厳冬期もまったく寒くありません。ここで両親と一緒に住む前に、私たち夫婦はいろいろなところでいろいろな家に住みましたが、高断熱の住まいがこれほど素晴らしいとは思いませんでした」。(住まい手のご夫婦)
この高断熱性能について、学さんが数値で教えてくれる。「地面に熱を逃がさない断熱材の役割も非常に大きいですね。以前は冬の朝、前夜飲み残したコップの水が凍っていたそうですが、リノベーション後は夜、暖房を消すときの室温が21℃、そして朝起きても18℃くらいと、一晩でたった3℃しか下がりません」。
この高断熱性能について、学さんが数値で教えてくれる。「地面に熱を逃がさない断熱材の役割も非常に大きいですね。以前は冬の朝、前夜飲み残したコップの水が凍っていたそうですが、リノベーション後は夜、暖房を消すときの室温が21℃、そして朝起きても18℃くらいと、一晩でたった3℃しか下がりません」。
この作品でもう1点注目したいのが「二世帯住宅」としてのプランニングである。住まい手のご夫婦一家とそのご両親。この2つの世帯の真ん中に仏間を配置して、入口に近い東側を子世帯、奥の西側を親世帯としている。
仏間とその裏にあるお風呂等の水まわりは、双方からアクセスできる共用空間である。
「この仏間は親族や来客が土間空間から直接アクセスできるようになっています。2つの世帯の間が障子や壁1枚ですと、TVの音など少し気を使う場面もあるかと思います。これもある意味で仏間を『空気層』としてワンクッション置くことで、お互いが心地良い距離感をつくっています」。(学さん)
仏間と居室を仕切る板戸をはじめとする建具は元々使われていたもの。土間空間との間には障子を配置することで、居室に明るい光を取り込んでいる。
仏間と居室を仕切る板戸をはじめとする建具は元々使われていたもの。土間空間との間には障子を配置することで、居室に明るい光を取り込んでいる。
お互いの存在を感じる「昔ながらの日本の住まいの良さ」と、現代のライフスタイルに沿った「程良い距離感」。これらが1つの大きな屋根の下で両立する、家族が安心して生活できる住まいである。
住まい手のご夫婦はこの家で特に気に入っている点として、「わが家を150年以上支えてきた柱や梁と、新しく造作した部分の調和」を挙げる。
本作をはじめ、1つの空間の中に古いものと新しいものが共存する魅力的な作品を多く手掛けている納谷建築設計事務所。「私たちのリノベーションは元の姿に戻す『復原』とは異なります」と学さんは語る。
「例えばそういう古民家再生などに関してはより専門的に取り組まれている方もいらっしゃいます。では私たちは何をする事務所かというと、古いものの価値を見出しながら、現在、そして将来の生活のための空間を提案することだと思っています」。(学さん)
「古い建物にはそれ自体のデザインが備わっています。この作品のように、新旧が一緒になったデザインを検討するとき、私たちは『古いものに馴染ませよう』とは考えません。私たちが挿入する新しいものによってそこにあったものが以前よりも生きてくる……。そのように古いものと新しいものがお互いに引き立て合うようなデザインをしたいと思っています」。(新さん)
「そうだね。私たちが吹き込む新しいものによって『蘇らせる』。これが私たちの目指していることですね。それは意匠としてはもちろん、プランや性能面でもそうです。そのときに古い要素が多すぎてもダメですし、新しい要素が多すぎてもダメ。その塩梅がキモになりますね」。(学さん)
21世紀に生まれ変わったみちのくの美しい住まい。ここから家族の新しい時が紡がれていく。
本作をはじめ、1つの空間の中に古いものと新しいものが共存する魅力的な作品を多く手掛けている納谷建築設計事務所。「私たちのリノベーションは元の姿に戻す『復原』とは異なります」と学さんは語る。
「例えばそういう古民家再生などに関してはより専門的に取り組まれている方もいらっしゃいます。では私たちは何をする事務所かというと、古いものの価値を見出しながら、現在、そして将来の生活のための空間を提案することだと思っています」。(学さん)
「古い建物にはそれ自体のデザインが備わっています。この作品のように、新旧が一緒になったデザインを検討するとき、私たちは『古いものに馴染ませよう』とは考えません。私たちが挿入する新しいものによってそこにあったものが以前よりも生きてくる……。そのように古いものと新しいものがお互いに引き立て合うようなデザインをしたいと思っています」。(新さん)
「そうだね。私たちが吹き込む新しいものによって『蘇らせる』。これが私たちの目指していることですね。それは意匠としてはもちろん、プランや性能面でもそうです。そのときに古い要素が多すぎてもダメですし、新しい要素が多すぎてもダメ。その塩梅がキモになりますね」。(学さん)
21世紀に生まれ変わったみちのくの美しい住まい。ここから家族の新しい時が紡がれていく。
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