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Houzzツアー: “時”を内包する住まい「調布の家」
人やモノ、そして住まいにはそれぞれ固有の“時”が宿っています。これらを空間に表した斬新なリノベーション作品をご紹介します!
Tetsu Takeba
2015年5月18日
Houzzコントリビューター。
出版社勤務を経て、編集事務所「Nect」設立。
建築・建設分野を中心に、
書籍や雑誌等の編集を手掛けております
あらわになった柱と梁。一部が切り取られた床板。そこかしこの“抜け”から見え隠れするさまざまなモノと空間。
一見すると「工事の途中かな?」とも思えるこの作品は、いったいどのようなコンセプトによって構築されたものだろうか?
一見すると「工事の途中かな?」とも思えるこの作品は、いったいどのようなコンセプトによって構築されたものだろうか?
東京都調布市にある賃貸併用住宅の改修(リノベーション)である。
設計を手掛けたのは建築家の青木弘司さん(青木弘司建築設計事務所)。
今回の計画は、築後25年を経た木造3階建ての建物の内部を刷新すると共に、耐震補強と設備の更新を行うというものである。
どんなHouzz?
賃貸併用住宅のリノベーション
居住者:60代の夫婦+犬
所在地:東京都調布市
設計:青木弘司建築設計事務所
協同設計:RGB STRUCTURE
規模:地上3階
構造:木造
竣工:2014年
どんなHouzz?
賃貸併用住宅のリノベーション
居住者:60代の夫婦+犬
所在地:東京都調布市
設計:青木弘司建築設計事務所
協同設計:RGB STRUCTURE
規模:地上3階
構造:木造
竣工:2014年
今回、白く再塗装する程度に留められた外観は、都内でよく目にするお洒落なアパートといった佇まい。
一方、今回のプロジェクトの肝である内部は大々的に手が入れられている。
まずはその構成。元々、オーナー住居部分(2階の奥2戸+屋根裏)とアパート部分(1階の4戸+2階の道路側2戸)というかたちだった構成を、オーナー住居部分(1階の一番奥+2階の奥2戸+屋根裏の奥2戸)とアパート部分(1階の道路側3戸+2階の道路側2戸)へと再編している。
2階のアパート2戸は再編によって屋根裏をロフトとして取り込んでおり、賃貸部分の面積を変えずにその魅力を増している。
一方、今回のプロジェクトの肝である内部は大々的に手が入れられている。
まずはその構成。元々、オーナー住居部分(2階の奥2戸+屋根裏)とアパート部分(1階の4戸+2階の道路側2戸)というかたちだった構成を、オーナー住居部分(1階の一番奥+2階の奥2戸+屋根裏の奥2戸)とアパート部分(1階の道路側3戸+2階の道路側2戸)へと再編している。
2階のアパート2戸は再編によって屋根裏をロフトとして取り込んでおり、賃貸部分の面積を変えずにその魅力を増している。
さて、今回の「Houzzツアー」ではこの建物のオーナー住居部分に焦点をあててご紹介したい。軸組が現され、3層吹き抜けとなったこの部分は、子どもたちが自立した後の、60代の夫婦ふたりが生活する場として再構築された空間である。
完成から1年。青木さんは、現在のこの家の様子をこう語る。「つい最近もお伺いしたのですが、観葉植物が好きな奥様の手によって、内部はまるで植物園のようになっています(笑)。それ以外にもたくさんのモノで溢れていて……、その結果、すごく居心地の良い住まいになっているのです! そのように住み込んでいただいているのがとても嬉しいですね」。
完成から1年。青木さんは、現在のこの家の様子をこう語る。「つい最近もお伺いしたのですが、観葉植物が好きな奥様の手によって、内部はまるで植物園のようになっています(笑)。それ以外にもたくさんのモノで溢れていて……、その結果、すごく居心地の良い住まいになっているのです! そのように住み込んでいただいているのがとても嬉しいですね」。
「デザイナーが設計した家というのは、ある意味、引き渡した瞬間が“理想的な状態”で、あとはどうやってそれを維持していくのか、ということに頭を悩ませるケースが多いですね。例えば、『建築家が真っ白い空間として考えてくれたこの場所にこんなモノを置いて良いのかしら……』とか(笑)。私がつくりたかったのはそういう閉塞感ではなく、住まい手と共に“成長していく”、生活に寄り添うような住まいです」。(青木さん)
「空間としても単なる箱ではなく、そこかしこにちょっとした居場所や奥行があります。だから住まい手のご夫婦は、ご自身やさまざまなモノの居心地の良い場所を見つけ出しながら楽しく暮らしていらっしゃいます。実際にお伺いすると置かれているモノひとつひとつがイキイキと粒立って見えるので不思議です」。(青木さん)
住まい手のご夫婦も「家具や小物、人や動物、どんなものでも馴染む、寛容さが気に入っています!」とご満悦の様子。
家という「モノ」だけでなく、「コト」のデザインにも挑戦した作品なのである。
家という「モノ」だけでなく、「コト」のデザインにも挑戦した作品なのである。
普通、家は完成したその瞬間から老いていくもの。しかし、住まい手の「住み込む力」によって日々共に成長していく家というのはオモシロイ。
青木さんはこう話す。「私が“時間”という問題に目を向けるようになったのは、多木浩二さんの『生きられた家』(青土社)という本がきっかけでした。“時間”という、これまであまり語られてこなかった問題に対して、私たち建築家は真摯に向き合う必要があるのではないか、と。今回のプロジェクトについて言うと、この家と家族が紡いできた25年という時間をここで断ち切ってしまうのは、少々敬意を欠く態度なのではないかと思いました。家には、家族によって生きられてきた時間が宿っていますし、家具や家族の所持品など、それぞれのモノには固有の来歴と時間が内在しています。さらに考えると、柱や梁といった建築の各部位は、社会的蓄積としての時間を備えている。古いモノや新しいモノ……今回のリノベーションによって、これらの時間を一元化するのではなく、バラバラのまま、価値の優劣なく併存させられたらおもしろいのではないか。過去を標本化せず、生きた設計の対象として捉えたいと思いました」。
青木さんはこう話す。「私が“時間”という問題に目を向けるようになったのは、多木浩二さんの『生きられた家』(青土社)という本がきっかけでした。“時間”という、これまであまり語られてこなかった問題に対して、私たち建築家は真摯に向き合う必要があるのではないか、と。今回のプロジェクトについて言うと、この家と家族が紡いできた25年という時間をここで断ち切ってしまうのは、少々敬意を欠く態度なのではないかと思いました。家には、家族によって生きられてきた時間が宿っていますし、家具や家族の所持品など、それぞれのモノには固有の来歴と時間が内在しています。さらに考えると、柱や梁といった建築の各部位は、社会的蓄積としての時間を備えている。古いモノや新しいモノ……今回のリノベーションによって、これらの時間を一元化するのではなく、バラバラのまま、価値の優劣なく併存させられたらおもしろいのではないか。過去を標本化せず、生きた設計の対象として捉えたいと思いました」。
「80年代のテーブルや90年代のキャビネット、そして少数ですが今回つくったモノなど、この家はいろいろな“時間”に囲まれながら生活していく空間なのです。ダイニングやリビングといった主要な部屋以外にも、無数のシーンが断続的に現れる。住まい手は、持続的に空間に関わりながら、日々新しい発見をしていくのです」。(青木さん)
「元々、この家は25年前に、近所の大工さんによってつくられたものです。だから今回のリノベーションに際して天井や壁をはがしてみると想定とは違う状態だった、ということも多々ありました。例えばカーテンレールの部分ですが、ここは梁せい(梁の高さ寸法)の違う材が連続して用いられていました。デザイナーのリノベーションというと、普通はこの不揃いを隠したり、あるいはフラットに見えるようにしたりするものだと思いますが、ここは段違いの部分にカーテンレールを設置することで、あえて“ズレ”が強調されるようにしました。また、目線の位置にふたつ並んだ出窓はよく見ると微妙に大きさが違い、窓枠も微妙に高さが揃っていない。そこで上の窓枠は高い方に合わせてボードを張り、低い方には少し隙間が残るようにして、“ズレ”が分かるようにしています。このように既存のノイズを隠蔽するのではなく、この家のチャーミングな個性として捉える。今回のプロジェクトは、このように家の成り立ちと対話するように進めていきました」。(青木さん)
1階には、キッチンやダイニングが配置されている。今回のプロジェクトでは家具などはあまり新調せず、あるものはそのまま大事に使う方針で進められた。
「そういうことも“あるがまま活かす”という考えに結びついたのかもしれません。1階に関しても、元々使っていらっしゃったキッチンカウンターやダイニングテーブル、キャビネットなどをそのまま使っています。そこにひとつふたつ、新しく購入したり、今回つくったりした家具が混在しています。『オールステンレスで美しいキッチンカウンターをデザインしました!』というかたちではなく、出所の違う家具を集めて、カウンター付きのシステムキッチンをブリコラージュ(寄せ集めて自分でつくること)してみました(笑)」。(青木さん)
「そういうことも“あるがまま活かす”という考えに結びついたのかもしれません。1階に関しても、元々使っていらっしゃったキッチンカウンターやダイニングテーブル、キャビネットなどをそのまま使っています。そこにひとつふたつ、新しく購入したり、今回つくったりした家具が混在しています。『オールステンレスで美しいキッチンカウンターをデザインしました!』というかたちではなく、出所の違う家具を集めて、カウンター付きのシステムキッチンをブリコラージュ(寄せ集めて自分でつくること)してみました(笑)」。(青木さん)
2階はリビングを中心としたワンルーム空間。中央に据えられた薪ストーブがカッコイイ。
「今回、ご主人が一番希望されたのが“薪ストーブのある暮らし”でした。セオリーに従うと、ストーブは1階に配置して、暖気が上にいくように計画します。でもそうすると冬場は家全体が均一に暖かい空間になる。そうするよりも、今回は無理のない程度に温度ムラをつくった方が良いと考えました。実際、住まい手のご夫婦も、どちらかというとご主人は“寒がり”、奥様は“暑がり”で、冬場などはそれぞれ2階と1階がお気に入りの場所だそうです」。(青木さん)
空間として自分の居心地の良い場所を探せるだけでなく、四季折々、温熱環境的にも「自分の居場所」を探すことのできる家なのだ。
「今回、ご主人が一番希望されたのが“薪ストーブのある暮らし”でした。セオリーに従うと、ストーブは1階に配置して、暖気が上にいくように計画します。でもそうすると冬場は家全体が均一に暖かい空間になる。そうするよりも、今回は無理のない程度に温度ムラをつくった方が良いと考えました。実際、住まい手のご夫婦も、どちらかというとご主人は“寒がり”、奥様は“暑がり”で、冬場などはそれぞれ2階と1階がお気に入りの場所だそうです」。(青木さん)
空間として自分の居心地の良い場所を探せるだけでなく、四季折々、温熱環境的にも「自分の居場所」を探すことのできる家なのだ。
この家にはお孫さんもよく遊びにくるそうだ。2階のリビングで過ごすことが多いご主人曰く「くつろぎながらも“抜け”によって階下や階上の様子が分かるので安心感があります」とのこと。
2階の階段下は吹き抜けにするために床板が外されている。根太が露になったこの部分は、現在、住まい手のご夫婦が板を渡してさまざまなモノを置くスペースとして使っているそうだ。
階段は象徴的に白く塗られている。
「この家は、いろいろなモノがバラバラに存在するようにデザインしていますが、とはいえ、それだけだと単にバラバラになってしまってあまり良くないという感覚もあり、1階から屋根裏までを繋ぐこの階段が背骨のようにかろうじて全体を繋ぎ止めている、というイメージで白くしました。階段の頭上にはトップライトを設けているので、そこから光が入り、少しだけ象徴的な場所として感じられるようデザインしています」。(青木さん)
屋根裏は当初手すりもなく、余白的な空間として設計されたという。
「その後、ご夫婦の手によって、遊びにくるお孫さんのための転落防止柵が設けられ、またテーブルなどが置かれて書斎のように使っていただいています。ここも今はモノが溢れていて、すごく良い感じになっています」。(青木さん)
「実際に住んでみて、3層吹き抜けの空間は改修前よりも圧倒的に開放感があり、光や風の抜けも良いところが気に入っています。空間的にも広く感じますしね。また昔から使っているモノや家の部材を目にするとき、ふと記憶が呼び起こされるのも楽しいです」。こう話す住まい手のご夫婦。そのイキイキと生活している様に接することが「嬉しいですね」と繰り返す青木さん。
25年前の大工さんの手の跡。その後、家族とさまざまなモノが過ごした時間。これらの記憶に、青木さんが手掛けたデザインとご夫婦の新しい時間が紡がれていく……。
東京の片隅に建つ、さまざまな“時”を内包する建物である。
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